#2 セントラル・ロード
午後6時をまわった歌舞伎町は、首都の一日を支配してきた聖なる光に逆襲するように、体内に溜め込んだ熱をいっきに放射して、東口から、西口からありったけの人間をかき集め、熟れすぎた果実のような匂いを発しながら新宿の色を塗り替え始める。
牛丼屋、マツモトキヨシ、カラオケボックス。駅前にはたくさん並んでいたチェーン店が、通りを歩き進めるとしだいに見当たらなくなり、箱のような低層ビルに貼り付けられたホストクラブ、ガールズバー、コンセプトカフェの看板が姿を現す。極彩色のネオンで照らされた各店のナンバーワンホストたちの肖像は、互いに競い合っているはずがなぜか皆同じメイクとヘアスタイルをして同じ角度で佇んでいて、唇から白すぎるセラミックをのぞかせて微笑んでいる。
通りに面したひときわ青白い照明を放つビルの1階は、真夏でもクリスマスのような装飾のついたショーケースが並び、中では白いチワワとブロンドのダックスが交互に吠え合っている。夜の街に不似合いなペットショップは逆に、繁華街の定番ともいえる。血統書つきの50万も100万もするペットをお客さんにねだって買ってもらうことは夜を生業とする者たちのステータスであり、またゲスト側にとっても、贔屓の子に高価なプレゼントを買ってあげられる甲斐性が富豪の証となる。ホストは客と別れたその足でショップに取って返し、子犬を返品して数十万のバックを受け取る。そして店は新品のペットを1~2割ほどの値段で買い戻し、繰り返し店頭に並べている。最高効率のゴールデン・エコ・サイクル。
イルミネーションがきらめくウィンドウからこちらを見つめているのは今夜も人の手から手へ、夜の街を往復させられる可哀想なチワワ。思いきや、ガラスケースの中でライトを跳ね返すかれらの眼もまた、人間たちに劣らぬ生命力に溢れて、訪れる人間たちを忙しく品定めしていた。
「こっち見んな貧乏人。おれは今夜100万で売れる犬だぞ」的な感じで。




