生徒諸君、こんばんは!
ドラクエ総合大学の看板学科、ネトゲ恋愛研究室へ、本日もようこそおいでくださいました。
当大学の学長にして、ネトゲ恋愛研究家のマキ学長です。
人はなぜ、会ったこともない人に好意を持つのでしょうか。
ネトゲ恋愛研究においてもっとも原初的なこの問題について、マキ学長はこの数年間、何度となく考えてきました。
そしてこの問いはいつも、さらなる疑問をわたしに呼び起こします。
「顔も知らぬ人に恋をしてしまうのは、われわれ日本人に特有の感性なのだろうか?それとも、諸外国のネトゲにおいても、見知らぬ人同士の恋愛文化が存在するのだろうか?」
当研究室では今後、そのあたりの研究レポートを上梓していこうと思っております。
その第一回目、本日の講義では「ネトゲ恋愛の系譜」を日本古典文学に求め、その一例として、小倉百人一首を取り上げてまいります。
はるか平安時代からわたしたち日本人に受け継がれし遺産、「会ったこともない人に恋をしてしまう感性」にハイライト!
資料1、藤原兼輔(ふじわらの・かねすけ)の和歌
みかの原 わきて流るる いづみ川
いつ見きてとか 恋しかるらむ
(湧き出る泉。瓶原の中を流れる泉川。ああ、あなたをいつ見たというのか。まだお逢いしてもいないのに、恋しい気持ちが泉のように湧いては流れる。
新古今和歌集「恋」996、小倉百人一首第二七番)
これは平安時代中期の貴人であった藤原兼輔が、思いを寄せる女性に向けて詠んだ歌で、百人一首にも収録されているとても有名な和歌です。
意味するところはですね、
「まだオフで会ったこともないし、何回かチャットしてるだけなのに、やべえ何なのめっちゃ好き!」とでもいったところっす。
この頃の貴族社会において、男女の恋愛のはじまりは、まず、懸想文(けそうぶみ)、つまりラブレターの交換から始まるのが一般的でした。
女性へのラブレターには、甘く教養に溢れる口説き文句のほか、オリジナルの和歌を添えるのが平安モテ男のセオリー。
そして当人同士が手渡しをするのではなく、お互いの従者を介して届けるのがルールでした。
恋は、男性が従者を通して相手の女性の特徴や評判を耳にし、「お、いいじゃん」と見初めるところから始まります。
そして男性は、その情報をもとに相手の好ましいイメージをふくらませてゆきました。
言うなれば、妄想の中で勝手に、美しく教養溢れる彼女の姿を思い描き、その偶像に恋をするという図式。
もはや真性の恋愛脳と言うほかない、まさにいにしえの相方スタイル!
こうして男性側の恋愛脳が暴走し、「彼女にリアルで会いたい!!」という段階に突入すると、いよいよ直結活動が始まります。
資料2、藤原定方(ふじわらのさだかた)の和歌
名にし負はば 逢坂山の さねかづら
人に知られで 来るよしもがな
(私の想いを、このさねかずらの束に託そう。この長いツルを手繰るように、誰にも知られずに貴女に逢いに行きたい…そんな願いを込めて。
後撰和歌集「恋」三701、小倉百人一首第二五番)
こちらも藤原家ご出身の右大臣、藤原定方様が女性に宛てたお歌です。
定方様は、この和歌に、小さな赤い実をつけたさねかずらの枝をひと振り添えて贈られました。
まあなんてろまんちっく。
マキ学長んちのポストに無言でうまのうんち99ことかプリズニャンの書99ことかつっこんでくる人たちは、こんどからちゃんといにしえの修辞を踏まえた和歌を添えて下さい。
ところで興味深いことに、平安貴族社会にもチャライケ魚男が実在していたことがわかっております。
資料3、源融(みなもとのとおる)の和歌
陸奥の しのぶもぢずり たれゆゑに
乱れそめにし われならなくに
(ごらんなさい、陸奥のしのぶ草の乱れ染めを。ちょうどあんなふうに、わたしの心は乱れています。わたしではなく、あなたのせいですよ。
古今和歌集「恋」4、小倉百人一首第一四番)
この歌を詠んだ源融は、紫式部の『源氏物語』のモデルにもなった希代のチャラ男でした。
このキザたらしい歌も、相手の女から贈られた「あなたってずいぶんとモテるのね。いつも違う女とPT組んでるじゃない?」的な嫉妬の和歌に対するアンサーソングとなっております。
さて最後にもう一つ、相方文化と親和性の高そうな、平安の和歌をご紹介しましょう。
資料4、藤原伊尹(ふじわらの・これただ)の和歌
あはれとも いふべき人は 思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな
(僕がキャラデリしても、どうせ誰も悲しまない。君が逢いに来てくれることもないまま、僕はこのまま消えていくのさ…
拾遺和歌集「恋二」710、小倉百人一首第四三番)
かなり意訳が入りましたが、だいたいこんな意味です。
やばい、ドラ10風の解釈で口語訳を作るのたのしくなってきました。
「ドラ10版小倉百人一首」編纂して出そうかしら。
お正月は、相方かるたできまりだねっ♥
そんなわけで、平安社会にも、相方プレイヤーが罹患しがちなメンヘラ症状をわずらう歌人がおったわけです。
ふうむ、今も昔も、日本人の恋愛傾向って、あまり変わっていないのかもしれませんね。
参考文献
●『クリアカラー国語便覧』数研出版
●『絵でよむ百人一首』渡辺泰明・朝日出版社
ちはやぶる ふゆのはじめの ドラクエだいがく