DQX相方文化十年史 Vol1. 「相方文化前史」


もくじ
 はじめに 
 1、DQX相方文化前史年表
 3、2000年代前半|UOとFFⅪ
 3、2010年頃まで|加速するネット恋愛
 4、2011年|大震災とLINE登場
 5、2012年|DQXサービス開始

はじめに


ゆく相方の流れは絶えずして、しかももとの相方にあらず。
よどみに浮かぶ相方は、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。
世の中にあるウェディ男とエル子と、またかくの如し。




全国の相方勢のみなさま、暇で下衆な相方ウォッチャーのみなさま、こんにちは!
わたくし相方文化研究家のマキ学長ともうします。

2022年に10周年を迎えたアストルティアには、ゲーム内恋愛を楽しむいとをかしき人々、相方勢なる種族が存在します。

――― 相方。
かれらをとりまく環境や、その中で生まれた慣習は、この10年でどのように変化したのでしょうか。
インターネッツのはざまで恋人たちが出会いと別れ、骨肉の抗争を繰り返す様は、まさに諸行無常。
かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなしでございます。

本日からはじまる連続講義は、相方たちが10年にわたって綴ってきた、なまなましクモ、いとをかしクモ、健気でほっとけないネトゲ恋愛の歴史を、ドカンと振り返っていこうという大企画でございます。
たーーーーーーのCーーー!!!!



学生諸君、DQXの遊び方は実に多様です。
しかしサービス開始からこの10年、さまざまなブームが生まれては消えていったこのアストルティアにおいて、廃れることなく続いてきたコンテンツが、「恋愛」をおいてほかにあったでしょうか。
否!
ヒマさえあれば相方日誌を読みふけり、相方募集イベントに潜入し、勝手な考察を重ね、あろうことかそれをブログに載せて喜ぶ……いまだかつて、こんな酔狂な暮らしを10年間やりとげたDQプレイヤーが、私をおいてほかにいたでしょうか。
否!!

ネトゲ内で恋愛を楽しむ人々がいるとはじめて知った遠い日、わたしは「なんつーやべー人たちだ」とうすら笑ったものでした。
しかし、今となってはそれを10年間研究し続けた私の方がよっぽどヤバい人になってしまいました。

だが学生諸君、だからこそ私が書き残さねばならない。
そう思わないか?
アストルティアの相方文化を記録しつづけ、いったいそれが何なのかを執拗に考えつづけた者は、たぶん世界に私一人しかいないのだから。

これは私の相方文化研究の、現段階での集大成です。
DQXに、共に十年を走ってきたプレイヤーと運営陣に、そして何よりアストルティアで恋するすべての相方たちに心からの敬意を表し、本研究レポートを捧げます。


DQX相方文化前史年表


聞け、アストルティアの子よ。
これなるは、相方の始祖の物語……。

結論から申し上げます。

アストルティアの相方文化、とくに初期のそれにおいては、DQX発売以前の黎明期SNSやネトゲから継承されし、いにしえの慣習が数多く認められる。

というわけなんだ、よろしいかキミタチ??
相方文化を学ばんとする者は、まず先史についてつまびらかにせねばならない
はいそこでコレ!!

(参考資料をもとにマキ学長作成。出典は最後に掲載)

 

コチラ、私がどんちゃん騒ぎもせず、旅行にも行かず、今年の正月休みのすべてを捧げて作成した文化年表です。
あ、ちなみにまだ続きありますので、次回の講義で見せつけるから震えて待て。
相方文化の記念すべき10周年ですもの、これくらいの労苦はいとわないよ学長は。
さて、さっそくポイントを解説していきましょう。

 

2000年代前半まで|始祖ウルティマオンラインと大衆化のFFⅪ


©Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA, EA GAMES, the EA GAMES logo, Ultima, the UO logo and Britannia are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved.


学生諸君、思い出してみましょう。
(ヤングな諸君は近代史の勉強だと思って聞いてくれたまえ)
今からおよそ20年前、私たち日本の庶民はインターネットを手に入れました。
しかしそのネット生活は今では想像できないくらい質素なものでした。
せいぜいiモードでケータイ小説を読み、リアルの知り合いとだけアドレスを交換し合って、返事の来ないメールにため息をつきながら健気に生きていたのです。

このようなインターネット黎明期において1997年、ネトゲの始祖の1つと呼ばれるウルティマオンライン(UO)が日本でサービスを開始しました。
それはまだ携帯電話にネット機能がなかったころの物語。
インターネットのメインユーザーが研究者とごく一部のパソヲタであった、遠く古き時代の物語です。

UOは剣と魔法で悪を討つ伝統的なRPGでありながらも、バトル、生産、流通、ハウジングといったMMOのあらゆるシステムを確立し、世界初のMMORPG成功例とも呼ばれました。
これが、一般の日本人が触れえた最古のネトゲの1つと考えられています。

注目すべきは、このUOがプレイヤー同士の結婚システムを持っていたことです。

UOのゲーム内結婚式 ©Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA, EA GAMES, the EA GAMES logo, Ultima, the UO logo and Britannia are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved.


UO内で結婚式を行うという慣習は、プレイヤー個人が企画・主催するイベント、いわゆるプレイべが発祥であったと言われています。
現在のDQXもプレイヤーイベントが盛況であり、運営がイベントをしやすいように様々な工夫をしてくれていますが、当時のUOもこうしたプレイヤー主導のイベントを手厚くサポートしていたそうです。
当初はUOプレイヤーが結婚式のイベント申請をすると、運営がそれをサポートしてくれるという受動的なスタイルだったところを、その人気に目をつけた運営自身が公式システムとして実装したと言われています。
ゲームマスターが結婚式の打ち合わせをサポートしてくれたり、挙式リハーサルをさせてくれたり、さらにはゲーム内アイテムの結婚指輪に名前を刻印してくれるなど、UOは総力挙げてネトゲ恋愛をプッシュしました。
いにしえのUOプレイヤーたちが運営していたブログやサイトは今でもネット上に豊富に残されています。
それらの文献を読むと、この時代の日本人はすでにゲーム内の恋人を相方と呼んでいたことがわかっており、日本における相方文化の起源はUOにあったと言うことができそうです。




あれはまだプレステ2もニンテンドーDSもなかった時代。ネトゲを遊ぼうとする人間はかなり限られたコアな層であったことでしょう。
そう、あれはまだオタクが疎まれ、「キモイ」、「怖い」となかば迫害されていた時代。

もしかしたら現実の恋愛は苦手な人も多かったかもしれません。
恋人を得る夢がネトゲではじめて叶った人もいたかもしれません。
仮想空間でのそれとはいえ、自分には無縁だと諦めていたオタク層の人々に恋愛をもたらした(かもしれない)ことは、UOの革命的な功績と言えるのではないでしょうか。

その後も、2002年にスクウェア・エニックスが人気タイトルFINAL FANTASY XIを発表。
さらに同年のラグナロクオンライン、2003年のメイプルストーリーと韓国発のネトゲも相次いでサービスを開始し、ネトゲは徐々に大衆化していきます。
今挙げたいずれのネトゲでも相方文化は盛んであり、公式の結婚システムが実装されていたことも判明しています。
UOの結婚システムが成功を収めたことにより、後続のネトゲも追随したものと考えてよいでしょう。
一般に、ビジネスは人間の行動原理に近いものほど太い商売となります。
ゲーム業界は気づいたのでしょう。
「ゲーム内恋愛は、でっかい収益源になる」と。

FFXIのゲーム内結婚式 ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.


しかし、当時のネット恋愛に対する世間の視線はいまだ非常に厳しいものでありました。
同じころ、素性を隠したり偽ったりして異性と出会うことのできる、いわゆる出会い系サイトが乱立し、詐欺や援助交際などの事件の温床になっていたことがその一因です。
また、ネトゲにハマるあまり学校や仕事に行けなくなったり、男女交際からトラブルに発展するケースも報道され始めていました。
2023年の今でも、相方文化はこういったネット社会の暗部のイメージを完全に払拭したと言えるまでには至っていません。

1998年に公開された米国の映画「ユー・ガット・メール」は、男女がお互いの素性を知らないままeメールを通して恋愛するという、当時としては斬新なテーマで日本でもヒットしました。
しかしその劇中においてさえ、メグ・ライアン演じるヒロインが同僚の女性から汚いものを見るかのような顔で「サイバーセックスよ!」と糾弾されていたことを、私は強烈な印象と共に記憶しています。
今でこそアメリカはマッチングアプリの大ヒット作を多数擁するネット恋愛最先進国ですが、そのアメリカにおいてさえ、当時はまだネット恋愛が後ろ指さされる背徳の行為であったことがうかがえます。



2010年頃まで|ガラケーゲーム、SNSで加速するネット恋愛

携帯電話の普及・多機能化にともない、2004年にGREE、2006年にモバゲー、2009年にはアメーバピグが登場。
このころ、携帯電話でゲームを楽しむ人が爆発的に増加しました。

アメーバピグ © CyberAgent, Inc. All Rights Reserved.


モバゲーやアメーバと聞くと、モバ彼、モバカノ、バーチャル遠距離恋愛……と、過去の黒歴史が浮かんで死にたくなる学生諸君もいるかもしれません。

しかし恥じることはありません。
この時代のケータイ文化は、のちのアストルティア相方界に継承された数多くの相方的行動様式を生み出した偉大なる文化遺産と言っても過言ではないからです。

モバゲーやアメーバピグは、SNSやゲーム、ブログを含む総合ポータルサイトサービスですが、SNSにもなるゲームサービスあるいはコミュニケーション要素の多いゲームサイトといった点において、現在のDQXに近似する特徴を数多く備えていました。

具体的には、
① ユーザーがアバターを持ち、洋服やアクセサリーに課金し、積極的にもう一人の自分を創出しようとしたゲームスタイル。
② チャットやメールサービス、日記サービスが充実し、ユーザー同士の交流に重心が置かれた点。

この2点はアストルティアに近い環境をユーザーに提供していたと考えられます。

ガラケーゲームは、自分の分身を操作して街や自宅という仮想空間でデートするという、リアリティある恋愛スタイルを可能にし、ゲーム内恋愛人口を増加させました。
モバゲーやアメーバピグの功績は、それまでパソコン中心だったネット恋愛をモバイル化し、より一般層への浸透を進めたことと言えるでしょう。

こうしてケータイゲームが多くのゲーマーに受け入れられた一方、2004年に誕生したmixiは、黎明期のSNSとして広いユーザー層に受け入れられていきました。

©MIXI

特にmixiでは長文の日記をしたためることによって、非リアルの友人関係を育む文化が広まりました。
ここでもミク彼ミクカノという相方のような恋愛様式があったことが確認されており、DQX初期の相方文化を大きく盛り上げた相方日誌勢は、mixiに親しんだ層が少なからずDQXに流入したものではないかと私は考えています。

こうしてネット恋愛は、一部のコアゲーマーだけのものではなくなり、一般の人々が手軽に楽しめるスタイルへと進化してきました。
ちなみに、DQXの冒険者の広場で昔よく用いられていた「あしあとコメント読んだら消します」や、かきおきメモで今なお見られる「フレンド整理します」などの謎の宣言、そして日誌で恋人を募集する行為なども、モバゲーやmixi、アメーバピグといったコンテンツ内ですでに行われていた慣習です。
こうした恋愛やネット上の振る舞いに関するさまざまな不文律が大切に守られ、今日に至るまで脈々と継承されてきたことは、じつに日本人らしい生真面目さの表れではないかと私は思います。




2011年|大震災とLINE登場 すべての人が「つながる」時代の到来



スマートフォンの急速な普及とともにネット利用がさらに拡大した2010年代において、ダメ押しの存在となったのが、2011年の東日本大震災です。
人々は災害の影響で連絡が途絶え、ひいては人間関係そのものが断絶してしまうことに強い不安を覚えるようになりました。
大切な人との関係を再認識する人が増え、結婚数が増加する現象も。

このような状況下に登場したLINEは、日本でははじめて大規模に普及した1on1型のSNSでした。
アプリの入手、メッセージ通信、通話まですべてが無料というサービススタイルは当時非常に斬新であり、またFacebookのような実名系キラッキラSNSになじめない人にも広く受容されました。
こうしてまたたく間にスターダムを駆け上がったLINEは、eメール・電話に代わる国民的通信手段の座に君臨します。

また、当時は安倍首相がFacebookを開設するなど公人のSNS進出がはじめて行われるようになった時期でもあります。
今では当たり前に行われていることですが、そのころはまだ「えっ!首相がネットで日記なんて書くの?」と注目を集めたものでした。

このような世の中の流れをみて、インターネットやSNSに対して懐疑的であった人びとも、次々に「ネットのある日常」に飛び込んでゆきました。
そしていよいよ2012年、満を持してわれわれのDQXがシリーズ初のオンラインゲームを世に送り込みます。


2012年|DQXサービス開始時期の絶妙

2012年8月、ドラゴンクエストXがwillでサービスを開始します。
これは私が思うに、実に狙いすましたかのごとき絶好のタイミングでありました。

日本におけるインターネット個人利用率の推移|総務省「通信白書令和4年版」をもとに作成。出来事は学長追加


こうして見ると、あらためてサービス開始時期の見極めの正確さに感嘆せずにはいられません。
これは日本国内の個人のインターネット利用率を表したものですが、DQXが発売された翌年の2013年以降、ネット普及はほぼ頭打ちになっていることがわかります。

国民のおよそ8割がネットを使うようになり、さらにSNSで自分をネット空間にさらすことに慣れ始めたまさにそのタイミングで、満を持して国民的ブランドのMMORPGを投入したこと。
それは、スクエニ社最大のタイトルであるドラゴンクエストによる利益を最大化し、人々に「ネトゲとしてのドラクエ」を受け容れてもらうためにもっとも重要な戦略だったのではないかと思います。
そしてこのタイミングの妙によって、おそらくは国内初であろう「オタクだけじゃない、ごく普通の一般人が集うネトゲ」を作り上げたことは、DQXの最大の功績ではなかろうかと常々私は感服しています。



さてこのように数千、数万の普通の人間が一つの空間に集まり、あたかもそこに一つの社会が形成されたのであれば、そこに恋愛が生まれるのは至極当然のことと言えましょう。
人が集まれば、友だちができる。グループができる。自分勝手な奴が出てくる。喧嘩する。そして色恋沙汰が発生する。
これらは多くの人間が共生する社会にかならず発生する、人類の原初的な行動パターンです。
2chに晒されようが、運営に怒られようが、だって好きになっちゃうんだもん、国民の8割がネット空間にいる時代に、そこで恋愛が生まれないわけがねーだろ!
っていう圧倒的母数の多さが、今日までのアストルティア相方文化を支えている、巨大な背骨なのです。



と、このような深く長ーーーーーーーいバックグラウンドの上に築かれたのが、こんにちのアストルティアの相方文化というわけなんですね。
がぜん関心が高まってきたじゃろ?

というわけで次回講義からいよいよDQXの相方文化の解説に移ります。
今回の先史文明をおさえとくとね、このあと登場するDQX相方文化の理解度がケタ違いなんだわー!
みなさんしこたま頑張りましょう。
私も頑張ります。
じゃ、また次回。震えて眠れえい!

【参考文献・サイト】
・『ドラゴンクエストXオンラインアストルティア十年史』2022年10月スクウェア・エニックス
「インターネット歴史年表」 2023年1月時点
 一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター
「情報通信白書」令和4年版ほか 総務省
「DQ10大辞典を作ろうぜ!第二版wiki」


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