相方日誌はなぜ絶滅してしまったのか

時にして2014~15年ころ。
ぼくらは相方日誌に夢中だった。



「今日は相方さんとストーリー進めました!」
「今日はわたしたちの結婚式でした!
…なーんてね。ティアの話ですよ~♡」
「今日、ティアで一番大切な人とお別れしてしまいました……」

相方日誌とは上記のような惚気、誰得のデート報告、あるいは恋人にまつわる悩みをつづった日誌のことで、かつてそれらは冒険者の広場のフレンドカテゴリを席巻していた。

彼女・彼らが紡ぐ相方日誌は当時ゲームのストーリーやレベル上げと同じくらい充実したエンタメであり、数多の「相方ウォッチ勢」を生み出した。
ネット掲示板「痛い恋愛脳を晒すスレ」が生まれたのもこの頃である。



相方日誌は本当にたくさんのスターを輩出してきた。
個別のキャラ名はご紹介できないが、当時わたしの中には「珠玉の相方日誌クリエイターズベスト3」がおり、今も彼らをしのぐクリエイターは現れていない。

第3位 恋人同士なのに日誌で互いへの不満をぶちまけ公開処刑し合う人間男性&人間女性の日誌。どちらの日誌もコメント欄は相手からの釈明・逆ギレの血で血を洗う応酬で、時折共通のフレンドが仲裁に入るなど、そこらの三文ドラマよりもよっぽど見ごたえがあった。

第2位 相方の魚子さんが何も告げずにインしなくなった人間男性による慟哭の日誌。彼女のサポを借りて写真を撮り、「お願い、早く帰ってきて」「もう俺のことなんてどうでもよくなったのかな…」「一言でもいい。この日誌を読んでいたら手紙ください」などと1カ月間にわたって彼女の連絡を求める内容が続いた。しかし力尽きたのか彼はある日を境に日誌をアップしなくなってしまった。彼の悲しい恋路を5年以上も記憶している他人はきっとわたしだけだと思われる。合掌。

第1位 「いっしょにいる魚男さんは相方です」と明言しないままに、絶妙に寄り添う写真や、並んだ布団の写真、「今日の晩御飯は彼のリクエストです」などと同棲を思わせる文言で読む者を甘酸っぱい混沌に陥れるエル子様の日誌。最近芸能人の不倫発覚などでよくみられる「匂わせ」、あれをアストルティアで数年前にすでにやっていたエル子がいることを我々は誇らねばならない。


(イメージ画像です)

ああ、あのエル子様、元気かな。

…とこのように、Ver2~3時代前期くらいまではぼくらの胸をアツくしてくれる相方日誌が隆盛を誇っていたのである。
けれどもみなさん思いませんか、最近、とんと見かけませんね。
相方日誌。

ためしに直近2週間分のフレンドカテゴリ日誌、全342件を流し読みしてきました。
善は急げ。
それはわたしの信条であります。




…ねぇ!
一件もねぇ!
相方日誌。

あの頃は毎日毎日、相方同士が寄り添ったり壁ドンしたり、おそろいドレアしてる日誌が溢れかえっていたのにさ…!
つまんない世の中になっちまったもんだぜ。

相方日誌はなぜ絶滅してしまったのか

誰が「書くな」と言ったわけでもなく、書き手たる相方勢がいなくなったわけでもないのに、なぜか広場に現れなくなってしまった相方日誌。
それはなぜなのでしょうか。

相方恋愛を快く思わない人々が集う掲示板が流行し、晒しに遭うのを恐れたから?
それともDQ10運営が業を煮やして、相方募集日誌の削除活動に踏み切ったから?


どれも部分的には、相方日誌絶滅をもたらす一因となったと言えそうです。
ですがわたしは、根本的な理由は「もっとプレイヤーの近くにある、あるいは、プレイヤーそのものの変化にある」と考えました。




プレイヤーの世代交代とネットエンゲージメントの変化

さあ、研究の時間です。
相方恋愛から、アストルティアから、ぐっと視線を引いてみましょう。
どうやら謎をとくカギは、現実世界のほうにありそうです。



ドラクエ10のサービスが始まってから、どれだけの時が経ったでしょう。
今年2020年の8月を迎えれば、アストルティアの世界は9年目を迎えることになります。

この9年とは、どれくらいインパクトのある長さでしょうか。
サービス開始時に新卒フレッシュメンだった若者は、今30代の働き盛りになっています。
あの頃いっしょにザキマリンした新婚人妻は、今は小学生の母になっています。
いやあ、こうして考えてみると時の流れを恐ろしく感じますね。
しかし注目すべきなのは、より若い世代が年齢を重ね、アストルティアの世代交代が進んでいることではないでしょうか。



上の図は、インターネットと各世代の関わりを表したものです。
デジタル業界のマーケティングなどでよく論じられているジェネレーション区分を、学長が適当にまとめました。

いわゆる「ドラクエ世代」といわれる人々は、だいたいX世代後期~ミレニアル世代前期に属する人々です。
DQ10サービス開始当時、この世代は30~35歳くらいでした。
ドラクエシリーズの過去作はだいたい遊んできたけれど、ネトゲは初めて、という人も多く含まれていたと考えられます。

しかしこの世代は、初めて触れるネトゲに抵抗はあるものの、2004年に登場したmixi、2008年に日本に進出したFacebookなどを普段から活用していた人も多く、「ネット上の、おもにテキストコンテンツを介して他者と交流する」ことに関しては比較的慣れていたと言えるでしょう。

わたしは、DQ10Ver1~2期における相方日誌ブームを形成していたプレイヤーの多くは、この世代層の人々ではないかと考えています。
mixi日記で自分の日常を語り、心情を文章化することを習慣としてきた人々にとって、冒険者の広場における交流日誌はmixiのそれと同様に魅力的なアウトプットツールであったのではないでしょうか。



そして今、相方日誌が激減し、絶滅しようとしている最大の原因は、プレイヤーが年を取り、世代交代が起こりつつあることではないかとわたしは考えています。

生まれた時すでに世の中に成熟したネット環境があり、SNSがあり、猫も杓子も芸能人のように自撮り動画を配信できるという世界に生まれたジェネレーションZは、ネオ・デジタルネイティブなどと呼ばれたりします。
彼らは「デジタルワールドとリアルワールドの境界が曖昧で、それらをまとめてひとつの世界と捉えている」と言われることがありますが、その特徴はドラクエ10への関わり方にも表れると思われ、さらにこのことが相方文化にも変化をもたらしているとわたしは考えます。



これは、ドラクエ10民どうしが使うコミュニケーションツールを簡単に分類したマップです。
マップの左にあるツールほど、ゲーム内領域に限定したコミュニケーションであり、右へ行くほどゲームから離れた、リアル度の高いコミュニケーションとなります。

ジェネレーションZに近い世代の人々ほど、左側の領域と右側の領域の間に境界線がありません。
「ここまではゲームキャラの私、ここから先は学校や会社に行っている本当の私」という区別がないのです。
だから若い世代ほど、「フレになろう」の次は「LINEしよう」「通話しよう」になるのです。
したがってこの世代の相方プレイヤーは、アストルティア領域内でしか読めない相方日誌など書かない。
そういうことなのかもしれません。



というわけで、プレイヤーの世代交代という面から「相方日誌はなぜ絶滅してしまったのか」を考えてきました。
自分でもある程度の納得感はあるものの、やっぱこう…あれだ。
相方日誌がないと寂しい。
つまんない。

数年前の相方日誌ブーム期に、わたしと同じように日誌を読み漁りまくっていたウォッチ勢のかたも少なからずおられることでしょう。
だって相方日誌は本当に魅力的でした。
相方日誌には、というか相方文化そのものには、「秘すれば花」的な、人目を憚る場所に咲くからこその隠微な魅力がございます。

リアルで叶わない恋だからこそ燃え上がる愚かさ。
会ったこともないのに、本当は相手がどんな人がわからないのに、それでも恋人と呼び合う滑稽さ。
そんなところに感じる背徳のような絶望のような、説明しきれない感情が、相方恋愛を面白いものにしてきたのではないでしょうか。

それでは本日はここまで。
マキ学長でした。


【参考資料】
デジタル新潮流「ミラーワールド」とは何か 
(三宅陽一郎・スクウェア・エニックス テクノロジー推進部 リードAIリサーチャー ・日経クロストレンド2019年12月6日)