鏡のむこうに行った君へ

いつものように冒険者の広場パトロールをしていたとき、フレンドカテゴリに1篇の短い日誌を見つけたのです。
タイトルは忘れてしまいました。
書いたひとの種族や性別がどれだったかも忘れてしまいました。
が、わたしはそれから3週間たった今も、ふっとその日誌のことを思い出すのです。
そして今日もまた何度目かに思い出した拍子に、この記事を残す次第です。



日誌主さんの種族や性別は忘れてしまったのですが、そうしたほうが話しやすいので、仮に彼女をエル子さんということにします。

エル子さんはVer5.1の公開をとても楽しみにしていて、その日帰宅してすぐにログインしました。
そこで異変に気付きます。
フレンドが一人減っていて、エル子さんはすぐに、リストからいなくなったのが誰なのかわかってしまいました。
エル子さんは、それなりに付き合いがあったはずのそのフレンドのことが気にかかってしまい、広場の「いっしょに冒険した人記録」をさかのぼって、フレンドのマイページに降り立ちます。

「そこでわたし見てしまったんです。フレンドの性別が変わっているのを」

その一文には、エル子さんが受けた衝撃と、フレンドからすれば誰にも知られたくなかったのであろう秘密を、フレンドの意思に反して無理矢理追跡し、暴いてしまったことへの後ろめたさが溢れていました。

誰にも言わずにただ一人、新しい冒険を始めることを決めたフレンドが、どうかこれからもっと楽しいアストルティア生活を送れますようにーー。
細かい言い回しは忘れてしまいましたが、エル子さんはいなくなったフレンドを見送る言葉で日誌を締めくくっていました。



わたしはこのフレンドさんのような人が好きだな、と思いました。
この方は、性別変更チケットを買ったことを周りに知られるのが恥ずかしくて、それまで付き合いのあったフレンドをすべて解除したのかもしれません。
そこまでしてでも、彼(彼女)はアストルティアでの自分をやり直してみようと考えたのです。
たかがゲームに。
単なるプログラムと画素の集合に。
なんだか不釣り合いな、こんな重厚な覚悟を持って向き合ってしまうような人が、わたしは好きです。

そして、この日誌を書かずにはいられなかったエル子さんも、わたしはとても好きだな、と思いました。
決して軽い付き合いではなかったフレンドが勝手にいなくなってしまったにもかかわらず、彼女は自分の立場だけで、一方的に罵ったり寂しがったりしなかった。
一人で鏡の向こうへ行ってしまったその人の、覚悟と行動を、エル子さんは尊重したのです。
フレンドが残していったのと、きっかり同じ重さと真面目さで。

こんな彼らの「フレンド」関係は、果たしてたかがゲーム内の、たかがバーチャルの属性記号なのでしょうか。
そりゃあ良いことばかりではありませんが、こういう出来事に出会ったとき、ネトゲは本当に愉快だな、面白いものだな、と思う次第でございます。