お盆の夜のふしぎなおはなし「実話編」

仄暗い井戸の底からこんばんわ

マキ学長です。

暑いので、ちょっと怪談らしいものでもひとつ、と思いまして、2年くらい前にあった本当の話を、本日はみなさんにお聞かせしたいと思います。

 


8月の、お盆のある夜のことでした。

マキさんはフレンドとふたりで、サポを二人連れて魔法の迷宮に行くことになりました。

ボスは、ドン・モグーラ。
サポでも倒せるけど、大地揺らしはあんまり避けてくれないので、まだまだ油断できない相手です。

フレはいつも前衛をやっている人でした。
モグラ戦の時はいつもチャージタックルとかたいあたりをすごくいいタイミングでしてくれるし、全般的にとっても上手な人なのでわたしは安心してついていきました。

わたしもフレも、魔戦と魔法でいっきに焼き切るあの周回戦法はあんまり好きじゃありませんでした。
それよりも、自分たちの好きな物理構成でスリルを味わいつつ戦おういうことになって、彼は戦士を、わたしは僧侶をすることにしました。

迷宮に入ってモグラと対峙し、序盤はいつものようにフレが上手にモグラのテンションバーンを止めたりして、うまいこと流れていました。

ふたりともわたあめを食べて、かわるがわるジャンプしながら戦いました。

ぴょーん

ぴょーん

ぴょーん

ぴょーん…

ジャンプの効果音を交互に響かせながら、快調にモグラの体力を削っていきます。

ぴょーん

ぴょーん…

モグラの頭が黄色に変わったころ、フレが急に飛ばなくなりました。

ぴょーん…

ぴょーん…

迷宮の高い天井に、間の抜けた跳躍音が、わたしひとりぶんだけ響いています

ぴょーん…

ぴょーん…

フレはジャンプをやめただけでなく、そのうち攻撃の手も止めてしまいました。

モグラの大地揺らしも、避けられないどころか避けようとする素振りすらしなくなり、彼にかけた聖女が剥がれるたびにわたしは何度もかけなおしました。

「どうしたの? 大丈夫?」

回線状態でも悪いのかなと思って声をかけますが、返事はありません。

「…」

フレは緑色の吹き出しを出していますが
チャット入力がおぼつかないのか、言葉が表示されません
いつもはけっこうチャットも早い人です
よっぽど回線が良くないんだな

「…」
「…」
「…」

からっぽの吹き出しが何度か表示されました
わたしに何か言おうとしているみたいでした
だけど、通信が安定しないなら、無理しなくてもいいのにな、と思って、そう伝えようと思ったその時

「お母さんきた」

彼が急に言葉を発しました
回線なおったのかな?
だけど言葉の意味は分からない
お母さんって何だろう…?

「お母さんきたよ」

フレはまた同じことを言いました
打ち間違いではなさそうです

「え?どうしたのw」

わたしの問いに答えず
フレは同じことを言い続けました

「お母さんだよ、きたんだよ」

???

彼とは今まで、家族の話なんて
したことなかったのに、急に何だろう
ゲームしてる部屋にお母さんが入ってきちゃったのかな…?

「違う」

考えていたことを言い当てられたようで、
わたしははじめてぞっとしました
ドラクエ10をやってて初めての体験でした

「お母さん帰ってきたんだよ」

…何を言ってるの?

「帰ってきたよ」
「お盆だから」

モグラのアフロが赤くなった頃にようやく、彼はふたたびジャンプしながら、せわしなくバンド仲間を攻撃し始めました

ぴょーん
ぴょーん

気を取り直してわたしも跳びました

ぴょーん
ぴょーん…

ふたりとも結構ボロボロになりながらどうにかモグラを仕留めました

宝箱を開けた彼がいつもするように、おどけてがっくりの仕草をしてみせます

「また破片かよー…ホントしぶいよなw」

いつもの彼に戻っていました
彼が口走ったお母さんのことは、けっきょく聞けませんでした


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ー マキさんのあとがき ー

このフレとはけっこう仲が良かったのですが、リアルにまつわる話はあまりした覚えがなく、もちろん彼のお父さんやお母さんといった、ご家族の話を聞いたこともありませんでした。

だからもちろん、
「もしかしてあなたのお母さん、亡くなっている?」とかそんなこととても聞けたもんじゃありませんでした。

…お盆だから、帰ってきた…

すでに亡くなっている彼のお母さんがチャットを操作して、息子に自分の存在を示そうとしていた……
わたしはずっとこの出来事をそんなふうに解釈してきて、今日このブログにこの話を書くときも、そう結論しようと思っていました。

だけどそれは書き始めるまでのわたしです。

どういうわけか、わたし、すっかり頭から抜け落ちていたのです。
わたし自身の母親が、他界していることを。

「お母さんだよ、お盆だから帰ってきたんだよ」

わたしは小さいころからゲームもドラクエも大好きだったので、母もそのことを知っていました。

だから亡くなったわたしの母が、わたしと話そうと魔法の迷宮にやってきたのだろうか、と考えることもできる。
ということに今さら気づいたのです。

というか、どちらかというとそのほうがシックリくる気もします。
でも母は、自分のことを「お母さん」って呼ばなかったんだよなあ、うーん…。
そうするとやっぱりあれは彼の……。

などと、また今年も、あの不思議な出来事を思い出す夏の夜。

フレとはその後あまり遊ぶ機会がなくなり、今はもう姿を見ることもなくなってしまいました。

あのお盆の迷宮はいったいなんだったのか気になるけれど、あの不思議な時間を共有したのは彼だけなのだけれど、けっきょくその後、わたしはそれを話題にすることもできませんでした。

だけど今は少しだけ、彼に聞いてみたい気もします。
もしも、このブログを読んでくれているようなことがあれば、何かしらご連絡ください。

いまやネトゲ恋愛研究家などとぬかしてヘンテコなブログをやっているこのマキさんは、あのときのエルフのマキです。

仄暗い井戸の底から、あのときのエル男さん、あなたをおまちしております。


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