アストルティア「怖い絵」展

4年前に、上野の森美術館で、一風変わった展覧会が開かれました。
モンスターや魔女、妖精といった人ならざる存在から、殺人や処刑などの人間所業まで、「怖い」をテーマに世界の名画をあつめた「怖い絵」展です。
見にいったという方もいるかもしれません。
わたくしマキ学長も行きました。
詳しくは長くなるので省略しますが、すごく衝撃的な展覧会でした。
「怖い絵」は怖い。
なんだか引きずり込まれてしまいそうで。

というわけで、今日の講義は「美術」です。
プレイ歴8年、学長よりすぐりのアストルティアの怖い絵を、ご一緒に探訪するといたしましょう。

 

作品No.1  イル・ラビリンス「王の2枚の肖像」

時は5000年前、エテーネ王国。
転移装置に仕掛けられた幻灯機によって、主人公とクオードはあやしい邸宅イル・ラビリンスに迷い込みました。
邸内の食堂に飾られているのがこの2枚の肖像画です。
モデルはどちらもドミネウス王。
王国の真相に近づきつつある主人公たちを惑わせるために幻灯機を使った張本人。

左はピカソの「泣く女」、右はムンクの「叫び」を彷彿とさせる、どちらも個性的な画風ですが、両者には微妙な違いがあるような気がしてきました。

左の王の胸には王国の紋章のブローチがあるのに対して、右の絵には描かれていないように見えます。
また左の絵は、風変わりな画法という点では右の絵と似ているようではありますが、オレンジ色の背景にはあたたかさや落ち着きも感じられ、王の立ち姿からも威厳らしいものを感じ取ることができます。
一方で、右側の王は魂を抜かれでもしたかのようにげっそりとして、心神喪失の風体とも見えます。
背景のまがまがしいグラデーションや、べっとりと貼り付くような濃い影からも、王のただならぬ状況が感じられます。

もしかしたら、左の絵に描かれているのは、王に即位したばかりのドミネウス。
そして右の絵はドミネウスの行く先を暗示したものなのかもしれません。
想像ですが。

ちなみに、食堂のギャラリーの全体像を見てみましょう。
2つの王の肖像のほかにも、ふしぎな絵が並んでいます。


王の肖像、黒猫の肖像、紫色のふしぎな大地の風景画と、砂時計のような静物画。
混沌とした作品群の中央で、ひときわ目を引くのがメレアーデの肖像です。
周りの絵と違って、メレアーデだけが非常に写実的に描かれています。
頼もしげな微笑みをたたえ、金色の光の中に立ち現れたメレアーデは、まやかしの館に迷い込んだ者を勇気づけ、導いてくれるかのようです。

 

作品No.2 幻影のドミネウス邸「花瓶」

こちらも幻灯機にいざなわれて迷い込んだ、幻影のドミネウス邸。
花瓶の絵は、空き部屋の奥にある隠し部屋にひっそりと飾られていました。

瓶のそばに赤いリボンが描かれています。
リボンはおそらく、メレアーデと黒猫チャコルのシンボル。
夜闇のような壁に浮かぶダイヤ形の紋様はまるで、じっとこちらを見る猫の眼。
リボンを残して、猫はどこへ行ってしまったのでしょうか。
まあ、想像ですが。

 

作品No.3 キラキラ大風車塔「謎のプクリポ肖像画群」

ところ変わって、プクランド大陸。
キラキラ大風車塔の内部に、不思議な雰囲気のプクリポの絵が4つも飾ってあります。
どの絵も水彩画のようににじんだ質感で、なんともボンヤリしています。
両端の黒っぽい絵もよーく見るとプクリポ。
特徴を見るに、4枚とも同じプクリポを描いたものと思われます。

なぜ、同じモデルを描いた絵が4枚も飾ってあるのでしょうか。
にじんだようなタッチがそこはかとなく不気味な、正体不明のプクリポの連作。
黒い2枚にいたっては、不吉な雰囲気すら漂います。
もしかしてもうこのプクリポは、この世にいなかったりして。

プクランド大陸を探してみると、このプクリポの絵、オルフェアの町の民家3軒にも同じものが見つかりました。



民家の室内に掛けられた2枚のプクリポ像は、どちらも大風車塔と同じ絵でしょうか。
けれど六角形の額の絵は、よくよく見ると、わずかながら、風車塔のものよりも明るい色で描かれています。
つまり、微妙な差異ながら、風車塔の六角額とは別の作品…?
これほどまでにたくさんの肖像画が描かれたこのプクリポは、いったい誰なのでしょうか。
民家に飾られているのを見ると、家族や子どものポートレートのようにも見えますが、複数の家庭や地域に同じ絵があるのはちょっとおかしい気がします。
となると、プクランドの著名人か、あるいは伝説の人物であると考えたほうが自然に思えます。

各地に肖像画が飾られるに値するようなプクランドの英雄と言えば、フォスティルやアルウェ王妃ちゃん様、ラグアス王子らがいます。
でも、ここに描かれているのは彼らとは似ても似つかない、平凡なプクリポです。
しかも裸。
ぐにゃりとしたタレ目も、そこだけ妙にビビッドな赤い口も、見れば見るほど不気味です。
誰が、いつ、誰を描いたのかさっぱりわからないプクリポの姿。
誰も語らないその素性が、怖い。


作品No.4 旧ネクロデア領「仮面の告白」

最後は魔界の絵画を1枚。
魔界は芸術家マデサゴーラの治めた世界なので、たくさんの美術品があふれていますが、わたしがご紹介したいのはこの作品です。

旧ネクロデア領にある酒場跡をはじめて訪れたとき、壁のほうから妙な視線を感じるような気がして振り返り、この絵を見つけたときは驚きました。
暗闇に浮かぶ白い顔……!
白黒の濃淡だけで表現された顔面に表情はなく、体温が感じられません。
しかし深い空洞のような目は、こちらをじっと見ているようです。

魔界のあるクエストをクリアするためにこの酒場を訪れて絵を見たとき、白い顔の気味悪さとともに、これは誰の顔なのだろうと疑問に思っていましたが、ネクロデアを歩き回るうちに気がつきました。
描かれているのは人の顔ではなく、仮面。
ネクロデア各地の石柱の上から、「ひきかえせ!」と旅人たちを脅してくる、あの呪われた仮面たちの絵なのです。


王都跡に遺されていた書物には、ネクロデアは鉱資源の採掘で栄えた国で、国民は鉱山そのものを暗鉄神ネクロジームとして信仰していたと書かれています。
また、仮面はネクロジームを讃える祭祀の際に使用されたと伝えられています。
この仮面はもともとは旅人を驚かせて足止めするのではなく、神の恵みに感謝し国の繁栄を願う目的で作られたものだったのでしょう。

仮面に霊魂が宿り、恨みの言葉を叫ぶようになったのは、ネクロデアが戦争によって滅亡した後のことです。
強い怨恨から天に召されることができず、この地をさまよい続けていた亡霊たちは、ファラザードの呪術師ネシャロットと契約し、仮面を死後の肉体としました。
王国の豊かさの象徴だった仮面は、こうして悲劇の証人となったのです。

そうした仮面のひとつに宿っていたのが、酒場で働くマリーナという女性の亡霊です。
マリーナはネクロデアの男たちのマドンナでした。
クエスト「仮面の下の素顔」で、主人公はマリーナの魂を解放しましたが、このクエストには隠されたエピローグがあります。
クリア後に酒場へ行ってグランドピアノに触れると、酒場に人が集い、賑やかだったころの幻影を見ることができます。



壁には、あの仮面の絵。
ネクロジームの仮面は、酒場にも飾られるほど民衆に愛され、身近な存在だったことがわかります。
しかし国破れて、仮面は、侵入者を拒み呪いの言葉を吐きかける恐ろしい存在になってしまいました。

死んだマリーナは、ある事情からひときわ強い怒りと悲しみを宿す仮面となり、「ひきかえせ!呪われろ!呪われろ!」とひたすら叫びまくる100年を送っていました。
彼女は主人公の助けによって仮面から解放されますが、それでも彼岸へは渡らず、酒場にとどまって恨みと呪いの存在であり続けたいと言います。
恋する人も、かつて酒場で裾振り合った客たちもみな天へ還ってなお、ただひとりその場に残りたい。
そう願う彼女の未練は、どれほど強いのでしょう。



マリーナは今も、この底なしのような昏く深い目の向こうから、わたしたちをじっとのぞき見ているのでしょうか。
多弁だった仮面よりも、消えない執着を秘めた物言わぬ絵画の方が、ずっと怖い気がします。
わたしたちが地縛霊、などと呼んでいる存在は、マリーナのような魂のことを言うのでしょうか。



〈参考資料〉
・DQ10大辞典を作ろうぜ!第二版Wiki
・DQ10本棚Wiki


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