ネタバレの本懐


 ドラクエXのプレイヤー交流サイトには「おはなし感想広場」というものがある。最新のストーリーやクエストをクリアしたプレイヤーが、まだプレイしていない人に気がねせず、存分に感想を語り合える場として設けられた投稿コンテンツで、いわば運営公認のネタバレ広場だ。登場したのは2018年2月で、設立発表は安西ディレクターじきじきに行われた。そのとき彼が語った、「おはなし感想広場」誕生の理由がおもしろい。
 曰く、開発チームとして「今回のストーリーやキャラクターがどのように受け止められたのか?」といった情報がもっと欲しかったから、というので私はとても驚いた。プレイヤーが意図に反してネタバレに触れてしまうリスクを防ぎたいから、という消費者目線の話ではなく、「だって感想を教えてもらった方がゲーム作りに役立つから」と開発側の率直なメリットを語った安西Dが、私にはすがすがしかった。
 同時に、ネタバレというものについて、私は知らず知らずのうちに少し傲慢になっていたのではないだろうか、という疑念も湧いた。自分だけの物語を自分のペースで楽しめること、誰かの不用意なネタバレから(主に運営によって)守ってもらうことを、当然享受すべき権利のように思っていた自分がいたんじゃないだろうか。安西Dの説明を意外に感じたことこそが、その証左のように思えた。

 さて、ネタバレを歓迎するのは何も制作者だけではないらしい。リサーチ会社の調査*によると、「映画を映画館で観るかどうかを、事前にネタバレを含む内容確認をしたうえで決めたい」と答えた人が19%もいたそうだ。およそ5人に1人が「ネタバレ見てから映画観る」という驚きのデータに、私はまたしてもぶちのめされる。
 しかし、考えてみればドラクエXでも、大型アップデートと同時に攻略サイトを見て、高く売れるキラキラ素材のありかを確認してから新しいマップを探索する、という人も少なくない。私自身は、新マップが解放されたら何の情報もないまっさらな状態で冒険したい派だが、金策勢にとってこうしたネタバレが不可欠なのは理解できる。世の中には役に立つネタバレもいっぱいあるのだ。
 ドラクエファンにとって役に立ったネタバレといえば、2019年に公開されたシリーズ初の映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』についての感想がSNSに飛び交ったのが記憶に新しい。「何だコレ」、「つらい」、「ひどい」、「怖くて子供が泣いてしまった」というネットの大炎上に怯えつつ、それでもファンとしてその正体を確かめねばならぬと劇場へ足を運んだ私は、決して好意的でない多くの下馬評を耳にしていたことによって、ショック死から救われたと思っている。さすがに「何がそんなにひどいのか」の「何」にあたるネタバレは見ていなかったが、もし何の情報も持たないままピュアな心で映画館に行っていたら、私は心臓が止まっていたかもしれない。今生きている私の生命は、先に映画を観てしまった数千数万の先人たちの警告によって生かされた生命だ。
 
 さきの調査で「ネタバレを見た上で映画を観るかどうか決めたい」と答えた人の割合は、若い世代に多い傾向があったらしい。なるほど。つまりネタバレした人をSNSなどで激しく批判したりすると、自分の年齢をネタバレすることになってしまう……、のかもしれない。


【参考資料】
「ネタバレOKな掲示板 おはなし感想広場オープン!」ドラクエ10X目覚めし冒険者の広場トピックス 2018年2月18日
*「新型コロナウイルスの影響トラッキング調査レポート」第11回(n=4,126)
 2021年7月9日 GEM Partners 株式会社
「ネタバレ 不快か参考か」2022年4月5日 読売新聞


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