ちょうど10年くらい前、さかんにドラゴンクエストXをプレイしていた頃、私は自分がネトゲ依存症になりかけていたという自覚がある。
ゲーム障害、ゲーム依存症の定義や診断基準は複数あるけれど、私がいちばん「ウッ!これ胸に刺さる!」と感じた依存度スクリーニングテストをご紹介しよう(抜粋版)。
IGDT-10(インターネットゲーム障害テスト)
● ゲームをしていないときにどれくらい頻繁に、ゲームのことを空想したり、以前にしたゲームのことを考えたり、次にするゲームのことを思ったりすることがありましたか。
● ゲームが全くできなかったり、いつもよりゲーム時間が短かったとき、どれくらい頻繁にソワソワしたり、イライラしたり、不安になったり、悲しい気持ちになりましたか。
● 過去12ヵ月間で、ゲームをする時間を減らそうとしたが、うまく行かなかったことがありますか。
● 嫌な気持ちを晴らすためにゲームをしたことがありますか。嫌な気持ちとは、たとえば、無力に感じたり、罪の意識を感じたり、不安になったりすることです。
参照 IGDT-10(10問版インターネットゲーム障害テスト) | 久里浜医療センター (hosp.go.jp)
このテストで5点以上の場合、「インターネットゲーム障害の疑い」と評価されることになっているが、当時の私は堂々、6点をマークしていた。
上記のうち、私の急所をもっとも衝いた設問は、「嫌な気持ちを晴らすためにゲームをしたことがありますか」である。
ハイハイハイ、そうです。それ私です。
当時、仕事をはじめ、私の周りには嫌なことしかなかった。
日常を構成するあらゆる欺瞞、未来への不安、偏頭痛、肌荒れ!便秘!迫りくる老い!!!
なにもかもに焦燥して、絶望していた。
そこからの逃避先をさがしていた私を、アストルティアは確かに救ったに違いない。
だが、ようやく見つけたハライソで浸る甘い蜜のプールから陸へ上がることは容易ではなかった。
依存度テスト6点獲得は、その明瞭な結果である。
それでもDQXに夢中になっていたあの時期に、自分に依存症状があることを客観的に数値化できる指標に出会えたことは幸いであった。
おかげさまで私は、「なぜ私はいい年して依存してしまうのだろう?」というところから「ネトゲの何が人をこれほどまでに魅了するのだろう?」という疑問に至り、「依存を促進する要素の一つは、ゲーム内の人間関係ではないだろうか。たとえば恋愛とか」という仮説にたどり着いた。
こうして好奇心を刺激された私は手さぐりで研究を始め、勝手に「相方研究家」を名乗ったりなんかして、ある種の〈依存症の向こう側〉へ到達する。
DQXで遊ぶ時間は減り、代わりに、医学や心理学の書籍を読んだり、関連ニュースを探したり、研究結果を発表する場としてのブログの構築技術などを学ぶ時間が増えた。
そうか、私は、勉強することが好きだったんだな。
というひとつの結論まで歩いて来られたのは、元をたどれば、DQXをプレイし始めたおかげである。
あの甘美な蜜の沼に身を浸したおかげである。
DQX依存にならなければ、私は私の本当にやりたいことにたどり着けなかったことになる。
不思議な因果だ。
今こうして「ああ、あの頃は依存症だったなあ」といえる私は、たんに幸運なだけなのかもしれない。
さてここで、幸運でない〈向こう側〉にたどり着いてしまった男の話をしよう。
勤務先の会社から約2億円を着服したとして、兵庫県警は22日、A社の元経理部次長、K被告(43)(大阪市港区)を業務上横領容疑で逮捕したと発表した。
K被告は調べに対し、うち約1億2000万円をインターネットゲームに使ったと供述。「課金して強くなり、ネット住民に認めてもらいたかった」などと話しているという。
読売新聞オンライン2023年8月22日。氏名・企業名のみ学長修正
発表では、A社(兵庫県尼崎市)に勤めていた2017~23年、会社のパソコンでインターネットバンキングを利用し、171回にわたり、売上金など約2億円を会社の預金口座から別の休眠口座に移すなどして横領した疑い。
金融機関などに勤める人が自社の資金を横領したり、または顧客に架空の商品を買わせて高額の代金を騙し取ったりする事件は最近よくある。
私は新聞購読ガチ勢、とりわけ社会面ガチ勢なのでこの手の事件はめずらしくもない。
しかし数ある横領事件の中でこの事件がひときわ輝いているのは、K被告が「ゲームのアカウントを強くして、ネット住民に認めてもらいたかった」と供述し、明確にゲーム課金を動機だと語っている点である。
しかも2億。
調べによると、Kは6年間にわたり合計171回の横領を繰り返していた。
単純計算した場合、だいたい隔週ペースで、約117万ずつ出金していたことになる。
ソシャゲのレベル解放、新ジョブ、新装備、その他各種ガチャが来るたびに石購入してぶん回して、SNSで「今回は100万でSSR引けたわラッキー、」なんつって、界隈の羨望をあつめてよろこんでいたのかなあ…。
お引出しの頻度と金額に絶妙なリアリティがあるために、どうにも想像がはかどってしかたない。
しかしK被告事件のさらなる妙味は、横領した2億円のうち、ゲームに使ったのは1.2億円だという点にある。
残りの8,000万円はというと、いわゆる女の子のいるお店につぎ込んだほか、ふつうに旅行行ったり、株買ったりしていたそうだ。
大切なお金を、全部仮想世界で溶かしたわけじゃなく、時にはリアル女子の気を引いてみたり、疲れたら温泉とか行ってリフレッシュしたり、さらには将来を見すえて投資にもチャレンジするなど、バランスのとれたポートフォリオを形成したK。
依存者、廃課金者、犯罪者、そのような地位に甘んじることなく、あくまでも善なる生活者としてよりよい未来を築こうと努めているあたり、だいぶ〈向こう側に行った人〉感がして、私はKがまぶしい。
そんなニュースでありました。
さて、なんかシリーズっぽくしちゃったので、少なくとももう1回、ゲーマーの罪について語りたいと思います。
いつになるかわかりませんが、私自身が体験したことなので、そのときの戦慄を忘れないうちに書いておきたいものです。
参考資料
●元次長、横領容疑で逮捕1.2億円ゲームに使用(読売新聞オンライン2023年8月22日)
●「ネット住民に認めてもらいたかった」ゲームに1億超課金、2億円横領容疑で43歳男逮捕(THE SANKEI NEWS 2023年8月22日)
ほか