
最近私を夢中にさせていること、それは夜な夜な Youtubeでゴミ屋敷清掃業者の動画を鑑賞することだ。
なんせゴミ屋敷にはロマンがある。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」と警鐘を鳴らしたニーチェが言うように、そこには、探求するこちらをも飲み込もうとする、深くて暗い大きな穴がある。
ゴミ屋敷が私を魅了するのは、誰にでも、私自身の心にも、それに似た埋めようのない穴があるからだ。
仕事のストレス、友人関係、劣等感。嫉妬。自己嫌悪。
そうした積年の精神的魔瘴が、無数のペットボトルやコンビニの弁当殻、吸い殻、未開封のまま埃を被ったAmazonの段ボールに具現化され、目に視えるかたちでうず高く積み上げてあるわけだから、私に言わせればゴミ屋敷というのはいっそすがすがしい。
悩み事、ことにメンタリティの問題は、可視化して、他人にも情報共有できる状態にするのが一番よい。
そうして危機を周囲に叫ぶことがないかぎり、誰かが助けてくれることはないからだ。
世間がよくそう呼んで見て見ぬふりをするものの総称、いわゆる「心の闇」を、「ここに深淵がありますよ、私を救出してほしいんですよ」、ってわかりやすくビジュアル化したものがゴミ屋敷だ、と私は思っている。
そしてこの魔瘴の充満した穴に落っこちるポテンシャルを、人間なら誰もが秘めているはずなのである。
そんなこんなで私はアストルティアにもゴミ屋敷にお住いのキャラクターがいることを思い出し、半年ぐらい切れていた月額課金を再開してさっそく会いに行ってみた。
2021年の装備袋拡張クエストに登場した汚部屋エル子、チヒロちゃんである。
まずは問題の、チヒロちゃんのお部屋。
ちょうどクエスト未クリアだったサブ魚男でお邪魔してみました。
すげえ部屋だな。それでもエル子か。
ゴミ屋敷を築き上げてしまう人は、往々にして同じものを何個も買い集める習性がある。
今まで鑑賞したリアルゴミ屋敷動画で最も多かったのが、ビニール傘を数十本と玄関に放置している人である。
毎朝天気予報を確認して折り畳み傘を持参するのを面倒くさがる程度にはズボラな癖して、コンビニ傘がもったいなくて処分することができないという妙な生まじめさをも併せ持つ。
ゴミ屋敷の主にはこういったアンビバレントな人格を持つ者が多い。
チヒロちゃんの場合は少し流派が異なり、好きなアイテムの山に囲まれて暮らすと安心するタイプと見た。
大好きなピンクが周りにあると心が落ち着くので、ピンクグッズがあったら何でも買ってきてしまう。
リアルゴミ屋敷の住人にも、こういうコレクター型は多い。
チヒロちゃん本人に話を聞いたところ、「どれも私の大切な子たちだから捨てられないよ。ふえええん」とのこと。
「捨てなくてはいけない、でも捨てられない」という理性的な葛藤を抱えていないところがより重症度が高く、ナチュラル・ボーン・ゴミ女であることをうかがわせる。
さてこの汚部屋クエスト、ゲームとはいえなかなか再現度が高い、と私が感心した「ゴミマニアな点」をいくつかご紹介したい。
まず、ゴミ屋敷の現実的な形成プロセスをちゃんと感じさせることだ。
ゴミ屋敷が完成するまでのロードマップとして、部屋の奥の方からモノを置き始め、置くところがなくなると上に向かって積み始め、それでも量を増すとやはり横方向に膨張してくるので、だんだん入り口側にしか居場所がなくなり、ついに生活圏が玄関になる…というのが王道である。
この部屋も壁際から大きめのゴミが積み上げられ、入口の方には辛うじて足の踏み場がある。リアリティがあって実によい。
本来もっと部屋の中央にあったちゃぶ台が、ゴミ山の成長につれて徐々にドア側に押し出されてきたのだろうという軌跡を垣間見ることもできる。
このクエストのシナリオを書いた人は、身近に汚部屋の主が居たのかもしれない。
そしてこのクエにはゴミ屋敷清掃業者まで登場するのだ。
こちらポイポイ商会のポイポイさん。
ゴミ屋敷のクリーニングは、とても危険な仕事だ。
リアルだと腐敗した食べ物が大量に放置されているから、あらゆる虫系が集結している。
ネトゲ廃人にはそんな人もいるなんて噂を聞いたことはあったが、おトイレに流すべきものをなぜか大量に溜め込んだりしている人もかなりの数で実在する。
どうぶつや人!のくさったしたいが発掘されることもあるそうだ。
なので細菌感染をふせぐためのグローブ、舞い上がるハウスダストから眼を守るためのゴーグルは必須。
作業服や靴も、1日で気軽に捨てられるものを装備するらしい。
ポイポイさんもリアルに忠実、やる気まんまんセット装備である。
じつに素晴らしい。
ゴミ屋敷熱が高まりすぎた私は、先日、機会あって知り合ったリサイクルショップの社長に「ゴミ屋敷掃除のバイトありませんか?」と聞いてしまった。
社長からは「アルヨ!!」と元気いっぱいの即答。
不肖マキ学長、細菌ガード100、ほこりガード100、腐臭ガード100のアクセを一刻も早く完成させて、この未知のダンジョンに挑んでみたいと思っているところです。

