古エテーネ王都キィンベルのストーリーに登場した魔法生物。
Version4のシナリオは政治思想や戦争など多くの刺激的なテーマを投げかけてきたから、その中にあっては少し目立たない存在だったかもしれない。
けれど「人工生命」としての魔法生物は、それを生み出してしまった者たち、利用する者たちの道徳を問わずにはおかない。
シャンテは、コポは、チュラリスやジョニールは、果たして生まれてもよかったのか。
魔法生物は年を取るのだろうか。
ストーリーをもういちど見直しても、かれらが年を経て衰え、やがて死を迎えるという性質を持っているかどうかは確認できなかった。
主人公のきょうだいが生み出したニコちゃんは物語の中で犠牲となり消滅したが、それは年を取ったからではなく力を使い果たし役割を終えたからだ。
リンカの語るシャンテ誕生秘話以外に情報がないので確証はないが、おそらく魔法生物シャンテは錬金窯を出たその時から、死んだシャンテと同じ姿をしていた。
赤ちゃんの状態で生まれ、現在の姿に成長したわけではないのだろう。
魔法生物は年を取らないのだ。
シャンテの宿主であるリンカは年を取り、体力が衰えてやがて死んでいく。
だけどそれを看取るシャンテは、きっと今と同じ若い娘のままに違いない。
生前の本物そっくりにやさしく真っすぐな性格を植え付けられたシャンテは、リンカの死をどれほど嘆くのだろう。
そして残された彼女は、どうやって生きていけばいいというのだろうか。
シャンテとジョニールはリンカに、チュラリスはゼフに。
魔法生物はみずからを生み出した錬金術師たちに使役する。
もしかすると、宿主が生涯を終えるとき、魔法生物も同時に機能を停止するようにつくられているのだろうか。
そうならば、魔法生物は悲しまなくて済むのかもしれない。
だけど勝手に生命を与えられ、機能を組み込まれ、おまけに性格や口癖まで製作者の好きに設定された上、いのちの期限までも、その時点で決められているとしたら。
だとしたらやはり、いつか指針監督官ベルマが言ったように、魔法生物とは人間の究極的エゴの産物なのだ。
現実世界でも、たとえば亡くなったペットとそっくりの犬をクローン技術によって生み出す手法が存在する。
飼い主はクローンの犬が死んだら、きっと第二第三のクローンをつくろうとするだろう。
クローンは知らない。
飼い主が、自分ではなく、かつて生きていた自分そっくりの犬の幻影を見続けていることを。
どうしたって家族の死を受け入れられない。
柔らかく温かい何かにすがらなければ、とてもじゃないが正気を保てない。
わたしたちの弱さが、今日も世界のどこかで終わりのない生命を造らせる。
魔法生物は最期の夢を見るのだろうか。
参考サイト:
DQ10大辞典を作ろうぜ!第二版より「魔法生物」
(いつもお世話になっております)
「死んだペットが10万ドルでよみがえる」
2018.7.1 The Asahi Shimbun GLOBE+