ミライの未来

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ミライちゃんはわたしと同じ時期にあのチームに入ったエル子ちゃんだった

わたしとミライちゃんはどちらもまだドラクエを始めたばかりで 
何もかもが面白く
何もかもが見慣れなかった
そしてそのせいかとても揺れやすかった

"あのチーム"はちょっと変わったところで、と言うか今思えばかなり問題があった

いわゆる相方カップルが三組いて、会話からの推測だけど、二組はおそらく既婚者だった

そのうちの一組が毎朝5時に起き出して、誰もいない早朝の、ひみつの逢引きごっこをするようになった

当時まだスマホで畑のお水やりができなかったから
わたしはたまに、こっそりと早朝にお花の世話をしにいくことがあって
はからずも、
彼らのひみつのひとときを目撃することになってしまった

ひみつの関係ならばフレンドチャットをすればいいのに
彼らはなぜかチームチャットを使って
会話というよりはもう、早朝から行為に及んでいた

それを見てしまったのがわたしだけならまだ良かった
でも、ほんの少しだから、とこっそりインしていたのは
わたしだけじゃなかった
ミライちゃんもそこにいたのだ
ミライちゃんはあのときまだ中学生になったばかりだった

数か月経って、このカップルは終わりを迎えたらしく
女性の方がチームを出ていった
まるで彼女などさいしょからいなかったみたいに
誰もその事を話題にしなかった
相手の男も本当に何もなかったみたいに
あたらしい相手をチームの中に求めはじめた

そいつがもう少し賢かったら
少なくともミライちゃんを傷つけずに済んだ
だけどそいつはバカだったから
わたしやミライちゃんや数人の女の子に
おなじ文面の手紙を送っていた

「話していて思ったんだけど、住んでる所たぶん近いよね?
LINEのID書いておくね
よかったら連絡して」

するわけねーだろバーカ、
と躊躇なく破り捨てる大人にわたしはなっていたけど
ミライちゃんはちがった
12歳だった

「マキちゃん、
これからも変わらず遊んでね
新しいコインボスは
いっしょに行ってね」

わたしが別のチームに移るとき
ミライちゃんはかわいいお手紙をくれた

それからかなり後になってはじめて
ミライちゃんも彼らの早朝デートを目撃し、男からの手紙を受け取っていたことを知った

「こわくて誰にも言えなかった。でもマキちゃんがもう別のチームなのだと思ったら、なんだか話してもいいような気がして」

ミライちゃんがかわいくて
とてもとてもかわいそうで、かわいくて
わたしは画面の中で彼女の頭を
ハゲができそうなくらい
なでなでしつづけた

なんでもっと早く気づいてやれなかったんだろう
ちょっと考えればわかることだったのにと激しく悔いた
あのくそカップルに、ゴミ男に
今さら憤っても遅いのだが、
わたしにすべてを知られたことが運の尽きと思えゴミめ
せめて今できるすべての罰をぶち落としてくれよう
ミライちゃんに言って、ふたり同時に「せーの!」であの男のフレを解除した
返す刀でわたしはリーダーを呼び出し、
「ゴミは燃えないゴミにでも出しておけ」と通告した

わたしの中の"大人"はこの処理をすることであのゴミを"なかったこと"にできる
他のチムメンだってそうだろう
今までだって本当は薄々わかっていたけれど
何もなかったようにすごしてきた
わたしたちにはそれができる

でもミライちゃんは依然として傷ついていた
彼女に会ったことは無い
声も聴いたことは無い
だけど彼女のかなしみはとてもよくわかった
それはたぶん、わたしの中にもまだ"中学生"が残っているから

あれからもう5年
お嬢様学校に通っているらしいミライちゃんは
きっと地獄のような受験勉強をしなくても良いのだろう
あまり姿は見せないが、
3カ月に一回くらい集中的にログインしている
それを見るだけでおねーさんは嬉しくなるよ
中学生のころはできなかった課金装備を
楽しそうにドレスアップして走り回っているミライちゃんに
たくさんの楽しい未来がありますように

また変な男が湧いたときでも、
リアルで好きな人ができたときでも
いつでもおねーさんを頼っておくれ

そしていつか君がまったく姿を見せなくなったとしても
それをわたしは
とても頼もしい気持ちで見送るだろう
君が心から楽しいと思える場所で
楽しいことをたくさん見つけておくれ

ついしん
今の白菜みたいな髪型はしょうじきどうかと思うが
その「エル子ブランド」を妄信しないアナーキーな感じ、おねーさんは好きだよ、わりと

        おわり