相方は百代の過客にして、行かふ恋も又旅人也。
松尾芭蕉「おくのほそ道」より
ティアの上に生涯をうかべ、サブから失礼して相方募集するものは、日々恋にして、恋を栖とす。
故人も多く晒されてキャラデリしせるあり。
日本列島1億2千万の相方ファンの諸君、ごきげんよう。
いよいよ今日は相方文化十年史、最後の講義となりました。
2013年から追いかけてきました相方界の発展と紛糾と興亡の歴史、その10年後の現在地を感じろ!!
前回までの講義
もくじ
・相方文化史年表2020-2022年
・コロナ禍で再燃 第三次相方ブーム
・「目標はドラクエ婚」ネットの出会いが当たり前の時代へ
・Z世代が牽引するこれからの相方文化
当大学名物!学長渾身の相方文化史年表
はいはいはいはいみんな大好き、わたしも大好き、学長手作りの相方文化タイムラインのお時間でーす!
今回もスクウェア・エニックス出版『アストルティア十年史』などの参考文献を血まなこで精査しながら相方的歴史事項をピックアップしました!
ああ~ん、この年表作るのも今回で最後かと思うと、ちょっとさびしいぴえん★
だから学長は今日からまたつぎの10年に向けて、相方たちの動きを観察、記録していきたいと思いまーす!
自薦、他薦によるたれこみもお待ちしてまーす!
というわけで2020年~2022年、最新の相方文化の解説していきまSHOW!
コロナ禍で再燃! 第三次相方ブーム
2019年以降の大迫害時代を経た相方界隈は、運営の検閲活動によって相方募集日誌も減少し、表向きには鳴りを潜めたように見えていました。
しかし学生諸君、本講義の初回に、私が放ったあの言葉を憶えているだろうか?
サービス開始からこの10年、さまざまなブームが生まれては消えていったこのアストルティアにおいて、廃れることなく続いてきたコンテンツが、「恋愛」をおいてほかにあったでしょうか。
否!
否!であります。
この世から恋愛がなくなったら人類はおしまいです。
なくなるわけがありません。
だって恋愛は人間の本能に基づいた原初的行動なんだモン。
これまでの講義を受けて、君ももう気づいているだろう?
アストルティアは我々が生きる現実世界の縮図。
現実世界の政治や経済から、くそくだらねえ流行までもがおもしろいほど反映されている、いわば私たちはゲームの中に社会の箱庭を生きているのです。
なれば当然、箱庭の恋愛もなくなるわけがない。
迫害を生き延びた相方勢は、いなくなったわけではないんです。
ただちょっと、べつの箱庭にお引越ししただけ。
疎開だよ、疎開。
迫害を逃れて相方勢がたどり着いたそこは、自由と希望の楽園。
楽園を提供したのは……
あまねくDQXプレーヤーを統べる者、おてう大先生…!
皆の者頭が高い、頭を垂れよ、道をおあけしろ…!
大先生はごぞんじDQX極限攻略データベースの管理人ですが、その中に実はフレンド掲示板があります。
まあ、説明するより見てきた方が早い。
ドラクエ10 フレンド・ルーム募集掲示板
見た?
はい見たね?
というわけでこの板では今も投稿の9割が相方募集なんだ、つまり、広場には現れなくなっただけで潜在的には相方需要はまったく縮小していないのでありました。
さて、2020年と言えばまだ記憶に新しいことでしょう。
新型コロナウィルスが国内でも流行し始めた年でした。
1月に国内初の感染者が確認され、大型クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号船内で700名超が感染、3月には全国の学校で一斉休校……と世の中はだんだん非常事態に近づいていきました。
コロナがアストルティアにはじめて明確なインパクトを与えたのは、4月に東京ほか7都県で発令された緊急事態宣言でした。
会社や学校は休業あるいは在宅対応、デパートもレストランも映画館も休業。
さらには不要不急の外出自粛が求められ、なーんもやることなくなった人々は……
前から気になってたけど忙しくて手を出してなかったドラクエ10始めてみました!
巣ごもり需要から、ゲーム業界は軒並み大繁盛。
われわれのスクエニ社は毎年利益拡大を更新し、2022年3月期には過去最高益を達成したと発表しました。
このコロナ特需の中、DQXでも「外出できないので始めてみました」「ヒマなので数年ぶりに復帰しました」という人が激増。
アストルティアに人が増えると、相方勢も増える現象はこれまでの歴史と同じであり、ここに第三次相方ブーム期が訪れます。
過去のブーム期と同様、冒険者の広場は有象無象の相方募集でごった返しました。
コロナ期に特殊だった傾向として、新規勢が古参勢のふるまいや慣習にキャッチアップするスピードが速かったことがあげられます。
外出自粛で持てあました長い時間をDQXに費やした彼らは、古参プレイヤーが投稿する相方募集にいたるまでもすばやく学習、模倣しました。
この時期の広場が、ややもすると「DQXのフレンド募集とは、イコール相方募集なんだ」「相方がいないとゲームを進められないんだ」のような印象を当時の新規さんに与えていたのではないかと、私は電柱の陰から案じていたものでした。
第三次相方ブーム期において特徴的な現象がもう一つあります。
2019年の運営による日誌検閲が発動されて以来、検閲を恐れたプレイヤーは、相方ではなく固定フレンドという呼称を使ってパートナーを募集するようになりました。
広場では2023年現在もこの呼び方が主流になっていますが、しょーじきいって、意味ないから正々堂々相方募集!っていってほしーんだわ、学長は。
固定募集って書いちゃうと、バトルの固定メンツ募集なのか、それともイチャイチャしたいのか、タイトルだけでニーズがパッと把握できないからおたがい効率も悪いと思うんだ。
(研究サンプルを探する私の効率もな!)
一目瞭然でアイキャッチすることは、集客の基本だよ、キミぃ!
おっと本音があふれ出してしまいました。
ただ、運営の日誌削除は単に呼称の問題ではないとわたくし思うのです。
相方募集日誌が粛清されるかどうかのポイントは呼び方ではなく実態。
私の3年余りの調査結果によれば、削除される日誌には、
① 年齢、住所など自分のリアル情報を書いている
② 性別、年齢など相手にリアル条件を課している
③ 仲良くなったらLINEしたいなど、リアルな要求が記載されている
という特徴がありました。
これらギルティ三要素のうち、①だけならお咎めなし、②で警告、③で即刻削除、みたいな段階制の基準が運営の中に存在しているのではないかと推測しています。
推測に過ぎないので、ギルティなご経験のある方はぜひマキ学長までおしらせください。
ちなみにタイトルを「相方募集」としていても、次のような日誌は粛清をまぬがれているように見えます。
① バトル、ドレアなど、あくまでゲーム内で一緒にやりたいことを書いている
② 中身一致です、など自分のリアルは控えめに表現
③ まずはどこチャでお話ししましょう、はOK!
とくに③は利用価値大!
しょっぱなからスマホでチャットしましょうだなんてナンパな募集に思えますが、DQXの公式ツールであるどこチャ活用が咎められる理由はありません!
相方勢の皆さまにおかれましては、こうした合法的な抜け道を駆使しながら、かしこく、たくましく、ふてぶてしく!!
乱世を生き抜いてほしいと思う次第です。
「目標はドラクエ婚」ネットで出会うのが当たり前の時代へ
2020年8月、写真界隈で名を馳せる某プクリポさんがTwitterで結婚を発表しました。
お相手もDQXプレイヤーだったことから、結婚報告にはキャラ同士のウェディング写真と婚姻届の写真が添えられ、SNS上で多くのプレイヤーから祝福されました。
2021年ころにはこうしたドラクエ婚報告がTwitter上に多く見られるようになりました。
ゲーム内外で仲を深め、結婚が叶ったあかつきには、アストルティアでカップル写真を撮影し、スクエニ特製のドラクエ婚姻届を役所に提出!
さらに披露宴はキャラクターのウェルカムボードや席札で世界観を演出するところまでが、相方恋愛の最旬サクセス・ストーリー!というわけです。
ついでに言いますとご懐妊、ご出産となりました際には、スクウェア・エニックスの公式ベビー&キッズ商品!
さらに、おこさまのかしこさステータスを爆上げする知育アプリ!
おこさまのぼうけんのしょを綴れるアルバムなども発売しておりますのでぜひともご活用くださあい!
っしゃーー!!
これぞまさにゲーム業界流のゼクシィ → たまごクラブひよこクラブの動線。
相方最強!ゲーム恋愛最強!
少子化というラスボスを倒すのは俺達できまりだぜ!
少子化対策・人口減対策の勘所はなんといっても若い人に恋愛をしてもらう、結婚をしてもらう、というところにあると言われています。
最近新聞で読んだ分析によると、Z世代以下の若年者層は、学校や職場といった既存のコミュニティが乱れることを忌避するため、マッチングアプリや仮想世界といったインターネット上の恋人探しをポジティブにとらえる傾向があるのだそうで。
じゃあ、DQXは10年も前から最先端の手法で少子化対策に貢献していた……ってコト?!
若き相方勢たちよ、日本の未来はキミタチにかかっている!
総員、胸を張れ!
はいこちらは「2022年に結婚したカップルの出会いのきっかけアンケート」、衝撃の調査結果です。
なんと出会いのきっかけ首位に輝いたのは堂々のマッチングアプリ!
おいおい誰だ、ネットでの出会いはきけんでふけつでけがらわしいなんて言うてたやつは?
そんな時代はとうの昔、もはや5人に1人がネットで恋人を見つける時代の到来であります。
同調査によれば2015年~19年にマッチングアプリで結婚した人は6.6%だったとのことで、コロナ禍を境に、ネットでみつける恋愛は市民権を獲得したものと考えてよいでしょう。
DQXが始まってからのこの10年、私たちのゲーム恋愛への視線も少しずつ変化してきたのではないでしょうか。
単身世帯の増加、コロナ禍によるお一人様行動の流行などを経て、若い世代ほど、直接会わなくても、SNSでゆるくつながっていればいいという価値観は強まっています。
今後の消費の中心であるZ世代にとって、「最初の出会いが仮想世界」であるネトゲは、彼らの恋愛観と非常に相性が良いのではないかと私は思います。
DQXが始まった頃、相方とはゲーム内だけの恋人をさす言葉でした。
しかし10年を経た今、昔とは見違えるくらいリアルとネットはひとつに融合しつつあり、現実の自分とバーチャルの自分をはっきりと区別することがあまり意味をなさなくなってきました。
実像と虚像の自分は、どちらもほんとうの自分であり、いくつものアカウントを自在に切り替える、ちょうどそんな感覚で、好きなときに、好きな自分に変化する。
そんな曖昧な在り方が私たちの現在地だという気がしています。
こうした意識革命のただ中にあって、ゲームにおける相方も、リアルで会う前のお試し恋人、のような新しい役割へと変容しつつあるのかもしれません。
たとえば容姿や会話に自信がなくても、ゲームの中でのインダイレクトなコミュニケーションならば自然体でいられるということがあると思います。
よいことも悪いことも、忖度も責任も、すべてを共有しないからこそ伝えられる自分がある。
こうした間接的・段階的な関係性がもつ時間的・空間的なゆるさはゲーム恋愛の大きな特徴であり、かつ、若年世代の恋愛観とも親和性が高いのではないでしょうか。
「ティアでしか恋愛できないやつなんて」と、昔の相方勢はさげすまれたものでした。
けれど、リアルでしか恋ができないよりも、リアルでもネットでも恋愛できる人間のほうが、出会いの母数が多くて有利になるのではないか?
相方とは、目的でなく手段である。
10年前では想像できなかった考え方ですが、2023年の今となっては現実味が増してきたように思えます。
あとがき
学生諸君。
人は皆、苦悩多き人生の中で、何か夢中になれるもの、生きる悲しみやつらさを忘れさせてくれるものを探し求めています。
私はDQXというゲームに出会って、仮想恋愛にいそしむ人々の謎に魅了されました。
相方文化研究を始めてからの私は、それはもう猛烈にMMORPGやSNSの歴史を調べました。
ネット社会における流行やうわさ話に敏感になり、いつも様々なメディアを歩き回っていました。
無我夢中で相方日誌を読み、恋に患う人びとを追いかけて、人から無駄と呼ばれそうなことを腹いっぱい考え、文章を書いてきました。
10年は長い年月のように思えますが、振り返ればあっという間でした。
こうしてこの10年、私は相方研究に没頭してきたんだ、そして夢中のうちに、あっという間に10年が過ぎたんだと思うと、とても幸せだな、と思います。
年を取ったとか眼が悪くなったとかそういうことはこの際ぶん投げて、本当にそう思います。
相方日誌を読んでいるとき、SNSで晒し晒され合う人々の怒号を聴いているとき、書きたいことをひらめいたとき、それを文章にしているとき。
私は、人生の退屈やかなしみをすべてなぎ倒すような圧倒的な「楽しい!」気持ちに突き動かされている自分を感じます。
そういう感覚に出会えたことを、とても幸運なことだと思います。
そしてこれはとても図々しい想像ですが、しかしこの楽しい!という感覚は、堀井さんや鳥山先生やすぎやま先生たちが、ドラクエを作り上げるときに味わったであろうエキサイトと、スケールこそ全然違うけれど、ほんの少し、きっとどこかほんの少し、似ているのではなかろうか、と思えるのです。
学生諸君。
私は今、猛烈に感謝しています。
何に、それはもちろんDQXに。
今スマホでこのレポートをめくってくれたあなたに。
そして何よりも、アストルティアでひそかに恋愛し、悩み、心をなぐさめてきた相方たちの存在に。
願わくはこの愛すべき世界で、またつぎの10年をみなさまといっしょに振り返りたいものです。
2023年3月 マキ学長 拝🌸
〈参考資料〉
・「ドラゴンクエストXオンラインアストルティア十年史」2022年10月 スクウェア・エニックス
・「DQ10大辞典を作ろうぜ!第二版wiki」
・2022年5月13日スクウェア・エニックス・グループ決算説明会資料
・「いい夫婦の日」に関するアンケート調査 2022年11月 明治安田生命