マキ学長どうぶつの森へゆく

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みなさんお気づきのとおりわたしは少し頭がおかしいので、人と同じゲームをやってもふつうの感想を持てないことがある。
最近あらためてそれを実感する痛恨のゲームをやった、かの任天堂が今年放った大ヒット作「あつまれ どうぶつの森」。

オッケー認めよう、私はこの森にいられなかった。
プレイ開始2時間ですでに腹は決まり、この邪悪な手記を書くことを決意していたと思う。
そしていくら「楽しくなかった」とはいってもいちおうその理由を己が内にも探してみようじゃないか、世界が絶賛したこの森は、どうして私を安らがせなかったのだろう。



さて私は例によって、森に生まれ落ちた瞬間からすごい債務を抱えている。
けど借金苦から滝つぼに身投げする機能とかないので、たぬきに勧められるまましかたなく森に住み始める。
拾った枝でせっせと竿を作って、アジやフナを釣って売って移住費用を返済する。


で、たぬき。
さも私にとって良い提案をしてあげていますという顔してたぬきは微笑みかけてくる。
「移住してくれたらこのスマホを無料でお渡しするだなも」
「移住費用は49,800ベルだけど、マイル払いならたったの5,000だなも!」
「住宅ローンは現金でしか返済できないけど、ローンを組めば特別プログラムマイレージ+の会員になれてお得なんだなも~!!」←New!


は、スマホ、マイル、ローン?しゃらくせえここはすべてのしがらみから解放された桃源郷だぞ、と舌打ちをしてたぬきの皮をかぶった商業BOT(いや実際BOTなのだが)をかわし、森に逃げ込んでひざを抱えるけれど、数分おきに通知を鳴らすスマホがやっぱり私を自然に帰してくれない。

うそつけよおお

そうだまくしたてるたぬきに抱く不快感には既視感がある。
ああ、あれだ。
新しい携帯を契約するとき窓口に出てくるおねいさんにたぬきは似ている。
端末お探しサービスだの液晶保護ガラスだの初期サポートだの、果たして自分に必要か即断できないオプションを次々にねじ込んで、「すべてご加入で通信料が3カ月間無料になりますよ(♡)」とおねいさんがにっこりしたときの、むき出しの資本主義に触れた恐怖とさびしさと憐れみが混ざって憤死しそうになるあの感情!
だめだやっぱり私は頭がおかしい。

でもしずえは好き

あとあれだ、このゲームをやって実感したのは、私は何か目的がないと生きられない病気なんだろうなってことだ。
どうぶつの森は基本的に、なーんにもしなくていいですよ、というのがコンセプトで、戦って強くなるわけじゃないし、家を大きくしなくたっていいし、年中Tシャツ1枚でもいいし、なんなら一生たぬきに借金を返さなくたっていい。
あらゆる足枷から自由なパーフェクトリバティー(語弊がある)、それがあつ森の一番の魅力だと思う。


なのに私ときたらどうしても暴力を磨きたい。
ステータスを上げて強敵を相手に毎日毎日もっとこうあれだ命のやり取りがしたい。
スローライフにあこがれる気持ちもなくはない、だけどいざ何にもしなくていいよと言われたら急に不安になって、今までの自分に全力でしがみついてしまう。


考えてみると私は現実においても、目標を決めたり成長余地を測ったりすることが好きなようで、ある程度の競争要素がないと、自分の存在意義を肯定しにくい性質がある。
私はまるで目の前に肉をぶら下げられて永遠に走りつづける獣、たぬきを蔑む資格なんてどこにもないじゃないかフフフ。


そんな私はRPGが好きだけど、考えてみればRPGはそれ自体、自己否定の連続なのだ。
新しいエリアに入れば周りのモンスターが強くてレベルを上げなければならず、レベルが上がればそれ相応の武器が欲しくなり、知人が増えれば見栄えのする防具で装う必要が出てくる。
気分転換に来たはずのメタバースで、今この瞬間楽しく遊んでいる自己を積極的に否定して、もっと強くもっとカッコ良く、って自分を追い詰める。
なんて馬鹿馬鹿しいのだろう、でも私はこういう人間らしさにしびれていたい。


自己否定が百害あって一利もないのかというとそうではない、って思いたい。
ブッダは王族の身分を捨てて出家したから悟りに至ったし、アンルシアは修行不足を悔いて頑張ったからバストアップしたし、アメリカがバイデンを大統領に選んだのは色んな意味でもうトランプのヅラが限界だったからだ。
FF14が今どんどん課金者を増やし隆盛を極めているのは、あまりにも品質の低かった旧FF14をクリエイター自らが否定し、一切合切メテオでぶっとばして最初からやりなおそうという、稀有な勇気があったからだ。
自身を知り、批判する。
今の自分じゃダメだ、力不足だという自己否定と、だからもっと強くなろう、改良しようという推進力は分かちがたく一体で、否定するという過程なしに先に進んだり、生まれ変わることは難しい。



まあ、ゆーてストイックなあり方はしんどい。
だからドラクエ10ぐらいが私にはピッタリなんだろうと思う。
「ドラクエ10はテーマパークみたいなもんなんです」といつか制作者が言っていたけれど、私にはどうやらその肉野菜のごった煮のようなコンテンツ祭りがちょうど良くて、今日はストーリーをじっくりやるぞとか明日はウェディ男になってエル子ちゃんにドラゴン奢るぞとか明後日は気が向いたら一気にレベル上げするぞとか思いながらいっこうに気が向かなかったりしている。
肉ばっかり食べて太るもよし、たまにピリリとしたエンドコンテンツつまんで火傷するもよし。



すっかりドラクエの話になってしまったね、ありがとうさよなら、どうぶつの森。
けっきょくゲーム評ではなく、ただただ私個人の心の闇の森を掘り返したあらぶれ日記みたいになったけど、私はとても満足だ。
たぶんあつ森を起動することはもうないけれど、この森に来てはじめて掘り当てることができたものが確かにあった。
こうやって自分や他人や社会のなにがしかの出土物にエンカウントすることは、わたしにとって最高のエンジョイだから。
だからまたドラクエじゃないゲームもいっぱいやろう。
そして私はまた新しい森をさまよって、また何度でもあらぶるのでしょう、2021年もどうぞよろしくね。


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