「時渡り」の最新研究(後編)

学生諸君こんばんは
マキ学長だよーん



きょうは前回講義の続きをおこないまーす
ドラクエXの主要テーマのひとつともいえる時渡り…つまりタイムトラベルについて、現実の物理学界がどんな研究をしているか、ひきつづきレポートするお。

今日も今日とて、ネタバレしかありません★
Ver4.5のストーリーを読了していない方が以下の記事を読むとしんでしまいますので、用法用量をまもって正しく服用してほしいキュ★

前回の記事はコチラ

「時渡り」の最新研究(前編)

2019年5月15日


さて前回のあらましとしては…
過去への時渡りをすると、歴史が変わってしまう恐れがあるよね、というタイムパラドックス問題に対して、リアル物理学者さんが提唱している説の一つ、パラレルワールド理論を中心におはなししました。

本日は、タイムパラドックスを解決するためのもうひとつの理論である首尾一貫の原則をご紹介しますよ。
そしてこの原則を応用した立場から、Ver4における時渡りの解釈を行ってみたいと思います。

- 過去へ時渡りしても、歴史の大局は変わらない - 首尾一貫の原則

前回の講義でおはなししたパラレルワールド理論によれば、過去へのタイムトラベルよって歴史が変えられるのは、タイムトラベラーがもといた世界とは別の世界であるとされます。
そして宇宙にはつねに可能性の数に応じた無限の並行世界が存在する…。
これがパラレルワールド理論というやつでした。

これに対して、ロシアのイゴーリ・ノヴィコフさんという博士が提案した首尾一貫の原則では、世界は枝分かれするものではありません。

時間軸はいつでも一つ、世界もただ一つです。
この原則によれば、タイムトラベラーが過去へ行き、何らかの行動をしたとしても、けっきょくのところ、歴史と矛盾する結果を生み出すことはできない、とされています。

つまり、今わたしたちが知っている歴史はそれ自体、タイムトラベラーがやってきて過去に干渉することもすべて織り込み済みである、というわけです。

こうした首尾一貫性 -過去に多少の影響を及ぼすことはできても、歴史の大局は変えられない- は、Ver4のシナリオで何度も登場していますね。

その中の一つとして、ここではVer4.2「赤き大地の双王子」を例示します。

Ver4.2で、主人公とキュルルは悪鬼ゾンガロンを封印する方法を求めて、現代のオルセコ闘技場を訪れました。

ムニュ大臣の書いた宮廷記録を確認していると、グリエの子孫と名乗る男が現れ、ガズバランのしるしを託されます。

ガズバランのしるしを古代オルセコに持ち帰り、舞いの秘術を活用することによって、主人公たちはゾンガロンを封印することに成功しました。



主人公の介入がなかった本来の歴史においては、戦乱の中で多くの犠牲を出し、100年の歳月がかかりましたが、ゾンガロンは結果的に封印されています。

主人公がタイムトラベルをして古代オルセコに干渉した歴史と、そうでない歴史。
いずれのルートをたどるとしても、結果的にゾンガロンは封印され、双王子のうちひとりが戦いの犠牲になったこと、さらにオルセコ王国そのものが滅びるという歴史の大局は変わりませんでした。

変わったのは、主人公が登場し彼らを助けたということ、舞いの秘術をいちはやく見出したことでゾンガロンの封印を早めることができたこと、ギルガランでなくグリエが早世する結果になったことでしょうか。



このように、ドラクエXの世界の時渡りは、タイムパラドックスに対して相当程度には寛容であるとわたしは思っています。

相当程度に、というのは、世界が歴史改変を完全に許しているわけではないことを示唆する場面が、これまでのシナリオにおいて何度か出てきたからです。

ドラクエXにおけるタイムトラベル、歴史改変に関する立場は、基本的には首尾一貫の原則に寄せられていると考えられますが、その根拠としては…

根拠1
Ver4.0で、未来からやってきたメレアーデが主人公に言った言葉

話は、Ver4がまだ始まったばかりの頃にさかのぼります。
異形獣の襲撃を受けたパドレア邸でマローネ母子を助けた後、キィンベルの街へ戻ると、そこには未来から時を渡ってきたメレアーデがいて、主人公にこう告げました。



「運命という激流にあらがうことは難しい。
未来を変えようとがむしゃらに行動しても、結局同じ滅びの未来へ流されてしまう。
ですが激流の中にあっても、別の流れに至る未来への分岐点は確かに存在するのです。
大切なのは歩みを止めないこと……。
今はもどかしいでしょうが、1歩1歩、のぞんだ未来に向けて歩いてください。
それが唯一の方法なのですから。」



時渡りの豊かな才能をもったメレアーデでさえ、アストルティアの滅亡という大きな流れを変えることはとても困難なことだと言っています。

アストルティアにおいても、世界の根幹をなすような大きな歴史にはその改変を拒む力が働いているのでしょうか。
それはまるで、物理学者のノヴィコフ博士がいうところの首尾一貫の原則に支配されているかのようです。

歴史の大局を変えることは難しい。
だからこそメレアーデは、主人公の旅のターニングポイントに必ず出現してわたしたちを助けたのでしょう。

世界滅亡の回避という、天文学的な確率のもとでしか成功しえない歴史改変を達成するために。

根拠2
主人公の兄弟姉妹が自宅のタンスに残したメッセージ



さらに、主人公の兄弟姉妹も、エテーネの村にふしぎな手紙を残し、「容易には歴史を改変させない何らかの力」の存在を示唆しています。

クエスト484「約束のはじまり」で、兄弟姉妹はタンスの中に手紙を隠していましたが、そこにはこう書かれています。

「キューブを手に入れてから村が滅ぶ運命を変えようと何度も時を越えたけど、あの滅びの時にはたどり着けなかった。
何度やっても数年前か数年後に着くし、時を待とうとすれば他の時代に飛ばされる。
運命を変えることをこの世界が拒むみたいに。」


国の存亡や、村の消滅…そういった、地球上の大きな出来事に関しては、そう簡単に歴史修正することはできないということでしょうか。
仮にそれをこころみる者がいて、歴史に一石を投じることができても、けっきょくはメレアーデの言うように、大きな流れに押し流され、織り込み済みの歴史に立ち戻ってしまう…。
どうやら歴史の自己修正性とでも言うべきものが存在するようです。

ただ、アストルティアにおける時渡りが現実の物理学説と違うのは、
「アストルティアは滅亡する」「エテーネ王国は滅びる」こういった大きな歴史であっても絶対に変更できない、というわけではないことです。
絶対に変更できなかったら、ゲームにならないんで…おっとこれは言わないや・く・そ・く

もとい、
非常に緻密で、継続的な変更作業を積み重ねてゆけば、非常に低い確率で歴史改変を成功させることもできるかもしれない…という余地を、DQXの時渡りは許しています。

この大変手間のかかる、成功確率の低い作業を積み重ねてミラクルを起こしたのが、Ver4全体の命運を握っていたふたりなのです。
その二人とは、

1、すべてを知った後のメレアーデ
Ver4.5までの経過を通じてすべてを知ったメレアーデは、長い長い時渡りの旅路を続け、運命の重要な分岐点に現れて主人公を導きました。

2、因果律操作で一発逆転をきめたキュルル
時間を巻き戻し歴史を書き直す…そんなおそるべき神の所業をひとときにやって見せた時の妖精キュルル。



過去にちょっとした影響を与えることくらいはできても、大きな歴史を変えることは困難である。ただし絶対に不可能というわけではない ――。

アストルティアを支配するタイムトラベル理論はこんなところでしょうか。
リアル物理学界の一つの有力な学説である「首尾一貫の法則」に、ファンタジー世界ならではのミラクルをひとさじ加えてあるかのようで、とても興味深いですね。

因果律操作とは何か -時の妖精キュルルの万能力-

最後に、因果律のお話をしましょう。

因果律操作。
それはVer4.5のおはなしのクライマックスで、永久時環とキュルルの力をめいっぱい使って行われた最終奥義でございました。

ラスボスであるキュロノスだけを亡き者にしたまま、世界全体を滅亡前に巻き戻す…などという、え、それやんの?!それやったら何でもありじゃん?!と言いたくなるような超絶アクロバット。



さて、因果律は、すべての科学の源となる考え方であるといわれています。
これまでご紹介してきた物理学の理論も、化学も数学も経済学も心理学も、すべての学問をォあまねく統べる者ォォ、それが因果律というわけです。

かんたんにいうと、「ものごとには原因があって、結果があるよ。結果が原因よりも時間的に先に来ることはないよ」
これが因果律ってやつです。

キュルル先生はそんな、あらゆる科学の大前提たる因果律をあやつってしまわれたわけで、一時はコイツこそが怪しいんじゃないかとラスボス説さえ流れたキュルル様、あなたは今思えば本当に恐ろしいお方でした。



最後になっていきなり登場した、どうにも既視感の拭えないウルトラの兄弟みたいなのがラスボスだったときには「えっ誰お前…」ってややがっかりしましたけど、もういいです。マキさんはゆるします。



なぜならキュルル先生がお持ちの、この世のすべての法則をぶっこわすスキル「因果律操作」のほうが、ずっと恐ろしいものだからです。
世のアニメや漫画といった業界においてさえ、「チートだろw」と言われてしまう反則技、それが因果律操作なのです。ああ恐ろしいッ

さて、2回にわたっておおくりしました「時渡り研究講義」はきょうでおしまいです。

なんちゅうかあれですね、Ver4のストーリーは、過去の作品に比べても、ドラクエ10の他Verにくらべてもかなりトガったシナリオでしたし、プレイヤーによって賛否は分かれるところだと思います。



が、主人公の出自という7年越しの謎が解けたシーンはとても印象に残りましたし、誰もが忘れていたたくさんの伏線をさりげなく回収していったサブクエストたちも、たいへん輝いていたと思います。

そしてなにより、あらゆることに首を突っ込んで変態的に研究したいマキ学長としては、政治、歴史、倫理、そして物理学といった多くの学問に、ストーリーを介して触れることができたVer4に、たいへんまんぞくしております。



タイムトラベルの上位技ともいうべき「因果律操作」が、世界を救う最後の手段として登場したという点も、なかなか興味深いことです。
Ver4のシナリオは全体的に、学問的視点からよく点検されて作られたのかもしれません。

まあほんとうに、開発陣の皆さんおつかれさまっした、ようござんした!!
ぶらぼーぶらぼー!はくしゅ!

<参考文献>
ニュートン別冊「時間とは何か 新訂版」2018年11月 
<参考サイト>
Wikipediaより「祖父殺しのパラドックス」
DQ10大辞典を作ろうぜ!より「時渡りの術」

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