どうして誰もロスアタしてくれないのか問題



はあい生徒諸君、マキ学長です
暑いですがみなさまご機嫌いかが

とつぜんですけどみなさんは、破壊神シドーいってますか!
ああ、もう旬は終わったから行ってませんかそうですか
でもマキ学長は……



ログインすると必ず行ってます!
なぜって面白いんです。
実装後、半年以上が経ってプレイヤーもシドーに慣れ、難易度が下がっているかと思いきや、


全然そんなことなかった

ちゃんと数えたりはしていませんが、わたしが参戦したシドー戦の勝率は6割ていど(!)で、今でも全然楽勝じゃない。
だから面白いのです。


なぜ、シドー戦はむずかしいのでしょうか。
破壊神の討伐成功率がいまひとつ向上しない理由の一つ、それは、われわれがやっとこさあと一歩のところまで追いつめた彼が怒ったときに使う、あの ベホマ にあると言えるでしょう。

ベホマ。
それは破壊神が、破壊神のくせに自分のHPを99999も回復するという矛盾に満ちた最期の抵抗。
赤く名前の色が変わったシドーのコマンドに「自分にベホマ」が表示されると、もはやわれわれは戦意を喪失して攻撃も回復もおろそかになり、また制限時間から言っても、逆転はとてもむずかしくなります。

なのでシドー戦においてはこのベホマを予防することが最重要事項の1つ。
実装後半年が経ち、われわれは、んなこたぁ言われんでもとっくに分かっちゃいるのだけど、どういうわけかこのベホマを抑えこむことができなくて、そのことがシドー戦の勝率が上がらない原因となっているとわたしは考えます。

ではなぜ、わたしたちはシドー戦のベホマを防ぐことができないのでしょうか。
まあ単に運が悪い時もありますが、多くの場合はみなさんもご想像の通りアレです、シドー様のお怒りをしずめるためのあの技、ロストアタックするのをサボるからです。

なぜ、人はロスアタをサボってしまうのでしょうか。
わたしが思うに、そこには「誰かほかの人がやってくれる」「今、私はロストアタックではなく、もっとダメージを稼げる別の技をやった方がいい」と勝手に判断してロスアタをほかの人に押し付けてしまう心理があるのではないでしょうか。

では見本をお見せしましょう。
シドーが怒り、ベホマをくらってしまったシーンにおけるプレイヤーの思惑は以下のとおりでございます。

【レンジャー】
いや魔剣さん錬魔の秘法使ってるヒマあったらロスアタ優先してくださいよw

【魔剣士】
いやいや今FB入ってんだから俺がダメ稼ぐロールに決まってるじゃないすか武闘家さんこそ行雲流水とか後回しにしてロスアタしてww

【武闘家】
いやいやいや行雲流水切れるまではずっと俺のターンっしょマセンさんはFB入ったらさみだれ打ってないでロスアタしてよwww

【魔法戦士】
いやいやいやいやあんたらがすぐ死ぬせいでマセンの俺はフォース、バイキ、ピオ掛け直しでクッソ忙しいんですけれどもwwwロスアタなんかしてる暇ないですよレンジャーさんこそ脳筋やめてくださいよレボルよりどう考えてもロスアタ優先でしょwwww

… レンジャーに戻る、以下ループ …
(イメージです)



えーさてこのように、「お前がロスアタしろよ」「いやお前がしろ」「いやいやお前だろ」と、口には出さないけれど心の中でロスアタをなすりつけ合う心理戦。
いったいこれは、どのような状況なのでしょうか。

上でみてきたように、前衛の人びとはどうやら「他の人がロスアタすればいい」「前衛なんてDPSの低い中衛がやればいい」と、他の人を頼ってしまうことがあるようです。

では、後衛はどうでしょうか。
後衛にしても、じつは心の中では、「自分の仕事は蘇生や回復だけ」と考えていまいがちで、「ロスアタは前・中衛の仕事、わたしかんけいないも~ん、ホジホジ」という固定観念にとらわれてしまいやすいのではないでしょうか。

でも、シドーが怒ってベホマしてしまうと、形勢が逆転してバトルが致命的にしんどくなるのは、パーティみんなおなじです。
ときには、後衛さんがロスアタしたほうがいい場面だってあるかもしれません。
だからロスアタは前衛でも後衛でもなく、本当はいっしょにたたかっているパーティ全員共通のお仕事なのです。
学長はそうおもいます。




それなのに、わたしたちはどうして仕事をおしつけあってしまうのでしょうか。
みんなで何かに取り組んでいるときに、やるべき仕事をちょっとさぼったり、他の人がやればいいや、と思ってしまうこの現象は、じつは、”社会的手抜き” と呼ばれて、心理学の領域で研究されています。

社会的手抜きは、”リンゲルマン効果”とも呼ばれ、リンゲルマンさんというフランスの学者さんが明らかにした心理現象です。

リンゲルマンさんは農業の学者さんで、集団で農作業をおこなったとき、人はどれくらいちゃんと本気出して働けるのか、という実験をしました。
すると、農作業を1人でするよりも、2人、3人、さらに大人数で作業をした時のほうが、人々は手を抜いてしまう、という結果が出ました。
1人のときの作業量を100%とすると、3人のときは85%、8人では49%の作業しかおこなわなかったというのです。

農作業とゲームのバトルでは、全く作業内容や置かれる環境が違います。
ですから、このリンゲルマン現象をシドー戦にそのままあてはめることはできません。

でも、「8人になると、人間は半分以下しか働かなくなるんだ」ということをイメージしながらたたかいに臨めば、自分がどう動いたらいいか考えるときに、ちょっと役立つかもしれません。
タゲられようがいなずまを打たれようがお構いなしにずっとMPブレイクしているバドマスさんに対しても、ほんのちょっとやさしい気持ちになれるかもしれません。
いやならんな

また社会的手抜きに関しては、べつの実験によりますと、「女性よりも男性のほうが、社会的手抜きをしがちである」ことを示すデータもあるようです。
性差のほかにも、年齢のちがいによって、「これは女性がやるべき仕事だから僕はやらなくてもいい」とか、「これは若い者がやればいい」とかいった固定思考が社会的手抜きの原因になっているのではないか、ともいわれています。

こちらも、そのままドラクエXのプレイヤー心理に通じると言えるわけではありませんが、とても興味ぶかいお話だと思いませんか。
「俺は魔剣士様だからロスアタなんてしないでガンガン攻めるぜw」とか、「わたしは賢者なんだから、ロスアタなんてバトルコマンドから消しても構わないわ」、知らず知らずのうちに、こんな偏った考えをしてしまいそうなわたしたちドラ10プレイヤーにとって、やっぱりこの社会的手抜きの心理は親近性の高いものではないでしょうか。

というわけで本日は、心理学のおはなしでした。
それでは生徒しょくん、またな!
マキ学長でした。


〈参考資料〉
『人はなぜ集団になると怠けるのか』 釘原直樹 2013年 中央公論新社
『Newton』2019年12月号 心理学超入門

▼ 今回の記事に登場した ”社会的手抜き”  は、左側の「心理学超入門」でおべんきょうできます。